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ちゅう、ちゅ、と何度も赤い額へ口付ける。

「、ねぇ。苗字、」

右腕を腰に回して引き寄せ、俯き加減の顔を持ち上げるように、左手を首筋へ這わす。

「ちょっと。」

ぐっと近づいた距離に気まずくなったのか、音を出さずにはくはくと口を開閉する及川はかわいい。

それでも眼だけはそらされない。潤んだそれがとても愛おしい物に感じた。

「ど、どしたの、なに?何かあった?」

襟足からうなじにかけて、ゆっくりと撫でる。

ぴくりと肩を震わせるこの男は、困惑でいつもの余裕の欠片もない。
自分は無防備なその姿を見れるということが、とても嬉しかった。

「及川。」
「なに?」

かわいい。及川が、かわいい。

「う、む…ふ。」

単に口をくっつけては離す動作を繰り返す。
角度を変えて、執拗に歯茎を、逃げる舌を絡めてねぶる。
とろとろと濡れた瞳は、俺だけを見ている。

とん、と壁にやつの身体を押しやって、股の間に足を割り込ませた。

額を合わせて、その瞳を覗き込もうと見つめれば、耐えられないというように、それはきゅっと眉根を寄せて伏せられる。

「及川。」
「う、」

咎めるように呼んで、首筋をなでる。
なけなしの抵抗なのか、胸元に手のひらが押し付けられた。

震えた声が、鼻をすする音の後に続いた。

「苗字ずるい…!」
「ずるかねぇよ。なぁんも、」
「なんなの!唐突なそのデレなんなの!」

心臓に悪いんだけど!
及川は真っ赤な顔できゃんきゃんとほえる。

そんなものは俺の知ったことではないし、第一俺は欲望に忠実でいたいだけだ。
決してデレなんかではない。決して。

「あと急なボディタッチやめて!セクハラ!」

流石にそれは聞き捨てならず、及川の股の間にある膝でそこをぐっと押しやった。
及川の口から、鼻から抜けるようなあやしい声と吐息が漏れる。

おいおいちゃんと反応してんじゃねーの。お前も。

「お前と俺の仲にそれは成立しねーな。」
「っのぉ…!ばかやろ、ひ!」

もう一度、膝で押す。
今度は耐えられなかったのか、腰を抜かした及川はそのまま膝に乗ってきた。
おいおい煽ってくれるじゃないかええ?

一文字に結ばれた唇をべろりと舐めてやる。
ああ、真っ赤だな。熱でもあるんじゃねえの。

「ううぅ…。」
「大人しくなったな。」
「ばか、苗字のイケメン。」
「お前には負けるよ。」

そんなこと、思ってないくせに!

再び及川はきっと俺を睨み上げ、声のボリュームを上げる。
なんだよ情緒不安定かよ。

いきがいいと思えば弱って、しおらしくなったと思えば強情になって。
本当に面倒臭いことこの上ない。

しかしこの面倒臭い男を誰より満足させてやれるのは自分だと自負しているし、何より誰にも渡すつもりもない。

「この性悪!」

ああもう、人がせっかくかわいがってやろうとしているのに。
うるさい口だ。塞いでしまおう。


title:不整脈のような恋ならば

20150306


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