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どのくらい、こうしているだろう。

普段、ペンを握り、本を開き、食べ物を掴み、そして、ボールを運ぶその無骨な指は、
たどたどしい動きでありながらも、今確実にその動きを進めている。

申し訳程度に握られていた手はいつしか離され、服の襟を握ると頬へと上り、
首筋を伝ってうなじをさ迷い、襟足をくすぐって後頭部へと回った。
そうして段々と力が入ってくると、最終段階。

「…キス、していい?」
「、どーぞ。」

唇が触れる合うだけの、まるでそこにある存在を再確認するようなそれを、赤葦は好んでする。
何度も何度も、合わせては離れ合わせては離れを繰り返して、赤葦は満足げにするのだ。これがまた可愛らしい。

ちゅ、と小さな音が静まり返った室内に響く。
瞼を下ろし、ただひたすらにその行動だけをする赤葦を俺はじぃっと見つめていた。

赤葦は一度のキスに、とても時間をかける。
それは次のキスとの間隔の話ではない。
確かに間隔も、一定ではないため少し長めではあるがそうではなく、
キスの時間、つまり唇と唇が触れ合う時間が、とても長いのである。
なぜ長いのか。それは赤葦のみぞ知ることだ。

これは単なる憶測になるが、赤葦は悩み事をしているのではないかと俺は思っている。

一度唇が触れ合い、離れると、赤葦はゆっくりと瞼を開いて俺の鎖骨の辺りをじっと見つめて動かなくなる。
たまに複雑そうに眉をひそめたり、唇を噛んだりするところを見ると、大抵が赤葦にとって嫌なこと、良くないこと、つまり問題点を頭に浮かべているのではないか。

大雑把に括って、悩みかなと思ってしまうのである。

折角恋人といるのだから、さっさと愚痴っちゃえばいいのに、なんて思う人もいるだろう。
だがしかしそれを良しとしないのが赤葦である。

はっきり言って、赤葦の問題に外野の俺が口を出すのはきっとただのお節介にしかならない。
赤葦はそれを俺に望んでいないのだから、俺は俺なりの気遣い方で、赤葦に気を抜かせてやるのだ。

再び唇の先が触れ合う。

赤葦の好きなようにさせてやる、というのが気遣い方の心得。

赤葦はお悩みタイムに入ると無意識なのか俺のうなじやら襟足やらに触れてくる。
それは少しくすぐったいが、我慢できないほどの物でもないので耐える。

抱擁にはしっかりと抱き返すことも大切だ。

突然、ふと我にかえったように、赤葦は俺の顔を覗き込んで申し訳なさそうに眉を下げ、抱きついてくるときがある。

「ごめん。」

因みに今がそうである。そういう時は、

「ん、ちゅーしてくれたら許す。」

なんていう、軽めのジョークを言えば問題はない。
いやただ一つ問題がある。

「…ばかだろ。」

この時の赤葦は中々ガードが緩くて甘いので、言ったことをすぐ実行してくれちゃったりする。
だから俺の鋼の心臓は情けないくらいに震えてしまうのである。
赤葦って弱るとおそろしい。超可愛いけど。

赤葦の謝った理由というのは、大方自分の態度の事だと予想がつく。
けれど俺は対して気にしていないし、むしろ自発的にちゅーしてくれたりハグしてくれたりと、積極的な赤葦にきゅんきゅんきていたりする。

「苗字。」
「んー?」
「…ありがとう。」

こちらこそありがとうなんて言えるはずもなく。
こてりと肩に頭を預けてくる赤葦の癖毛を弄りながら、俺はそのつむじに口付けて、お疲れさまと囁いた。

ふと顔を上げた赤葦が、俺の下唇に軽く吸い付き、すぐに顔を俺の首筋の方へと逃す。

ああもうくっそ、なんでそんな可愛いことすんのかなこいつ。

お互いに見せられる顔ではなかったので、俺の腹が鳴るまで二人ともそこから動かなかった。



20150217
20150304


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