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ぐるりと頭が揺すられて、暗闇が見えてくる。
全身が沈み込んでいくこの感覚は、不思議と心地よくて、また浮き上がりそうだといつも思う。
暗くて、少しだけ頭がいたい。瞼はおもい。

無意識に動こうとした身体が、左腕を押さえつける何かに邪魔される。そこでやっと俺は眼を開けた。

暗い茶色が見える。それがさらさらと流れるようなものだともわかる。

一度、ゆっくりとまばたきをする。

ぼやけた視界がぴたりとあわさって、その輪郭がはっきりしてくる。
無防備に曝け出されたその寝顔に、俺はどうしようもなく幸せな気分になった。

左手を握り返して、起こすつもりもないのに俺は彼におはようと言う。


迅さんと俺の関係を言葉で表すとしたら、高校時代の先輩後輩、である。
一緒に飯食うし、買い物も行く、仲の良い先輩後輩。
ただ、普通の先輩と後輩とは少し違うとこがある。

キスとかセックスをするとこである。
ちなみに俺と迅さんは恋人同士とかではない。

セフレってのが一番しっくりくるんだけど、そこまで軽いものじゃない気がするっていうのは、単なる自惚れなんだろうか。

俺はボーダーの人間じゃない。
ただの大学生で、住んでるのも三門市じゃない。

俺がどうして自惚れてしまうのか。
それは、迅さんが俺に会いにくるからである。

干渉をされるのを嫌がるくせ、俺のパーソナルスペースに踏み込もうとする、ような振る舞いをするから。
用も何もないのに、俺のところに来ては年上のくせに飯をたかったり、年上らしくどっかに連れてってくれたり、恋人みたくセックスするからである。


とはいえ、目覚まし時計の針はもう10時を過ぎている。寝すぎた。どうりで頭がおもたいはずだ。迅さんも起こさねば。

「じんさーん、」

昨日床に放ったジーンズを履いて、彼の横に腰を下ろす。上から覗いた寝顔には、普段後ろに流している前髪が降りてきていて、その無防備さと幼さを際立たせていた。

「…起きろー。」

ちょいちょいと目元を撫でて、手の甲で軽く頬を打つ。ぎゅ、と眉が寄って、駄々をこねるような唸り声がした。
薄く、青い瞳が重たげなまぶたから覗く。
どこかぼんやりしているそれは寝起き特有で、ああまだ寝ぼけてるんだなと少し笑えた。

「もーほら、今日、は、あ?」

するりと、迅さんの腕が持ち上がって俺の腰へまわる。一瞬、まさかこの人このまま腕締めてきたりしねぇよなと不安になった。
この人寝起きはよく俺で遊ぶからな。
そう身構えると、案の定迅さんの腕に力が入る。

しかし、待ち構えても圧迫感は全く来ない。
身体を捩って迅さんを見やる。どうしたのか。

そこで俺が見てしまったのは、迅さんがぐっと腰に顔を近づけてきて、柔らかいものをそこへ押し当てるという、可愛らしいことこの上ない動作だった。

キスをした。迅さんが。俺の腰に。

「じ、んさん。」

名前を呼ぶと、その顔がゆっくりと落ちていく。え、は、ちょっと。

まってまって、これ寝落ちとか許されないや、つ…あ!?迅さん耳赤くない?!

「迅さん!起きろ!」
「…ぐう。」
「ふざけんな起きてんじゃん!」
「寝てる寝てる超寝てる!だから苗字は仕方ないなって笑っておれの朝食を作ってリビングで待ってるべき!」

おれのさいどえふぇくとがそう言ってるなどとわけのわからないことをシーツをかぶって叫ぶ迅さんに、俺の心臓はばくばくうるさい。
なんだよ腰とかふざけてんのかこの人。
じゃあ俺が今までしてきた場所の意味もわかってたのか。それをくすぐってえとか笑ってたのか。なんてやろうだ。おれはいまもうれつにしにてえ。

「いっみわかんねー!なんだよ今の!」
「お前ちゃんとわかってるだろ!?」
「っ、いやいやいやわかんないっすわ!」
「嘘つけ!」

口で言って欲しい。俺を縛りたいってことは、それって一体どういうことなんだよ。
予想はついてるけどそれじゃあ満足できねえから、

ちゃんと言葉が欲しい、ってのはわがままか。



20150908


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