WT | ナノ

人だかりが出来たそのモニターに映る姿に、ぶわりと何かがあぶれていきそうな気がして目を逸らした。

おちつけ、おちつけ。なにまいあがってんだ、最近ちょっと忙しくて会えなかっただけだろ。

らしくないぞと自分に言い聞かせていると、ちょうど、外野が盛り上がった瞬間を見逃した。

それでもモニターに映し出される、黒コートの相手をうっとおしそうに見つめるあの人の様子を見れば、この模擬戦もしょーもない賭け事なんだろうなあと、そこまでおれはあの人をわかってる。

わかってて、おれはモニターでぶつかり合う二人のようにはなれないって理解して、それをちゃんと受け止められるかっていったらそうじゃなくて。
そんな大人にはなりきれてないから、まだ子どもみたいに拗ねて怒って、許されたいんだ。

再び外野がざわめいた瞬間は、見逃さなかった。
爛々とひかる色は、いつもとは違う。

「…たのしそうだよなあ。」

でもね、名前さん。おれは許してあげられないよ。

本部じゃ大抵太刀川さんとこの隊室にいて、探せば一緒に太刀川さんがいて、模擬戦してても相手は太刀川さんで、レポート間に合わないって騒ぐ太刀川さんを説教したあとは二日くらい音信不通になるよね。

高校からの同級っていうのは知ってるし仲良いっていうのもわかってるけど、もっとおれのこと優先してくれてもよくない?と、おれは思うわけですよ。

今視えた未来じゃ、名前さんはおれに時間をくれるみたいだから、おれにもそろそろわがまま言わせて。

「ということで、」
「は?」
「名前さん、おれに何か言うことない?」
「…ごめん?」
「違うよ。」

怒ってないよと笑って見せる。
そう、おれは別に怒ってるわけじゃない。ただ勝手にヘソを曲げてるだけであって、名前さんが謝るようなことなんてないのだ。
確かにもっと気にかけて欲しいとは思うけど。

「本当に?」
「うん。」

唐突に家に押しかけたおれになにも言わず、いらっしゃいと快く迎えてくれた名前さんが優しいというのは誰だって知ってる。
そして、太刀川さんはそのやさしさにつけ込むのが上手い。そこでやはり経験というものを感じて、おれはまた面白くなくなるのだ。

けれども、感情の起伏が少ない名前さんがちょっとだけ眼を大きくして、おれの手をぎゅうっと強く握って引いてくるのは珍しい。
おれが好きな色の眼が迫ってくる。心臓が騒がしい。

「ごめん。」
「、なんで。」

怒ってないってば、なんでそんな言葉がなんだよ。
おれが聞きたいのはそうじゃない、それじゃなくて。

「…ちがう、くない?」

はやく、はやく言って欲しい。
優しい眼で、熱い手で、その声で。
見せて、触れさせて、聞かせて。感じたいから。
おれが急かしてるのに気づいてるみたいに、名前さんはゆっくりと一呼吸置いて、おもむろに唇を開いた。

「悠一。」

うん。おれの名前、もっと。
眼下で動いて震える音にぞわりと鳥肌がたった。

「悠一、」

すきだ。全部熱くってのぼせそうで、眼を閉じる。

「お前と会えないの、かなりこたえた。」
「…ん。」
「お前がいないの、けっこう寂しい。」

それ、本当?散々太刀川さんと遊んでたんじゃないの。なんて、変な勘繰りをする程度にはおれはあんたに好かれてる自信がないんだよ。
未来でこうやって好きだって言われてるところが視えても、やっぱり慢心出来ないんだ。

「俺は、寂しい一週間を過ごしたよ。」
「う、ん。」
「…悠一は?」

まっすぐな視線に耐えられなくなる。
おれの奥の方から全部を引きずりだそうとする眼はぞくぞくするし、嫌いじゃないんだけど。
名前さんは逃がしてくれない。ずらしても、強引にそれを合わせてくる。

「悠一。」
「…なに。」
「俺は言ったんだから、おまえも言えよ。」

くしゃりと額をくすぐってくる前髪が愛しくて、おれはまだその優しさに許されていたくなった。

好きって気持ちがいっぱいにつまった言葉と行動と視線を浴びて、なにをどう不安になればいいんだろう。急に強気になった自分にちょっとだけ呆れて、それ以上に幸せになっている。

だからどうにか、その通りにしてしまいそうな自分を取り繕って、最大限意地悪くみえる顔をして、いやだねと答えてやるのだ。



20151115
20151228


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -