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多くの若者が苦しみそして喜ぶクリスマス。
その日に出掛けないかと誘いかけてきたお前を、珍しいだとか思うより前に頷いたのは記憶に新しい。

そして、その今日という日を心待ちにしていた俺は今、絶望のどん底に叩きつけられた気分で目の前の男の背中を見つめている。

家族連れしかいないようなこの場所で、男二人が突っ立っているのは中々に目立つ。しかも一人は真剣な表情でブツを吟味しているときた。
喜色満面な親や嬉しそうな声をあげて駆けていく子どもを見て、やっぱり場違いだなあと肩を竦める。

まさかオモチャを買いにいくとは思わんよ、二宮。

「おまえ、子どもいたっけ。」
「結婚さえしてない。」
「カノジョもいねーしな。」
「なんだ急に。」

ぐるりと振り向いた二宮の顔は少しだけ不機嫌そうにも見えて、宥めるつもりで苦笑いをして返事を促す。

「いるの?」
「いない。」
「だよなあ。」

俺がその答えに満足したと思ったのか、二宮はまたオモチャの方へと顔を戻してしまった。うーん、複雑。

「誰にやるの?甥っ子とか?」
「違う。」
「ええぇ…知り合いの子?」
「知り合いだが、…人の好みにとやかく言う筋合いはないしな。」

なるほどわからん。つまりどういうこと。
けれどもどうせ根掘り葉掘り聞き出そうとしたところで、二宮はうるさいの一言で俺を黙らせてしまうんだと、それを予想してる俺は何も言わずにその隣に並ぶしかない。

「恐竜が好きなん?」
「ああ。」
「これとかは?」
「いや、もっとリアルなのがいいな…。」

硬い手触りの模型を手に取りながら、あれはどうだこれはどうだと二宮にすすめていく。

「あんまゴツいと危なくね?怪我とかしそう。…うわ、こいつ超顔厳つい。やめよ。」
「そういうのがいい。」
「おい、怖がったらどうすんだよ。」

その時、やっと二宮と眼があった。
けれど二宮の表情はとても訝しげで、何言ってんだおまえと訴えられてる気がする。

「高校生がこんなの怖がるか。」
「は?」

まって、いま、高校生っていった?


「…小学生くらいかと思ってた。」
「話が噛み合わなかったのはそういうことか。」
「先に言っとけよ。」

時刻は正午過ぎ。これからボーダーで任務があるという二宮のために俺は車を走らせている。
というか買い物の足にされた感じがして、ちょっと…いやかなりショックだった。

まあオモチャ選びの前までは、普通に昼飯食ったりノートの写しあいしてたわけだから、そんな文句は言えないんだけど。

「…苗字。」
「あ、時間やばい?裏道使うつもりだけど、…これがいつ抜けられっかな。」

クリスマスだからだろうか。昼間なのに車がやけに多くて、中々前に進まない。
…というかクリスマスってホームパーティーとかして外でないもんじゃないの、なんでこんな見る車見る車に乗ってるのカップルばっかなの。つらい。

そんな私情は置いといて、二宮を仕事に遅れさせるつもりは全くないので、とりあえず脳内で最短のルートを組み立てる。
と、隣の男からはすぐに否定的な言葉が返ってくる。

「いや、時間はまだいい。」
「あ、そう?」

そんな一言でも嬉しくて、ちょっと遠回りしてやろうかなとよこしまな気持ちが芽生えてきた。

変化のない前を見ていても面白くもなんともないので、顔を二宮の方へと向ける。
二宮もちょうど俺を見てたみたいで茶色の眼とばっちり合ってしまって、でも外すのもどうかと思ったのでそのまま見ているのことにした。
…こいつマジで彼女いねえのかな。嘘じゃないよな。

女受けのよろしい端正な顔を見つめながらそう思案していると、二宮がおもむろに口を開けた。

「おまえ、夜空いてるな。」
「断定なのむかつくなあ。」
「空いてるだろ。」

何を言われるかってちょっと身構えてたんだけど、今ので気が抜けた。というかなんだか気まずくなる。
そうだよ俺彼女いないからね!そう思うよね!

でも独り身男は独り身男で、ちゃんとクリスマスを楽しむ集まりってのがあるんだからな!

「空いてませーん。」
「、は?」

目の前の車のブレーキランプが切れたのをいいことに、俺は顔を前へと戻す。
視界の端に二宮が俺を見てるのがうつっている。

「独り身は独り身同士集まって騒ぐんですー。」

あ、ちょっと自分で言ってて悲しくなってきた。
ゆるゆると動き出した、ラジオも音楽もなにも流れていない車内に変な空気が漂っている。
なんだかいたたまれない気持ちになった俺は、ちょっとだけ挙動不審になった。

沈黙の中、警戒区域が近付いていると少し嫌な音ともにナビがそう報告してくれる。
二宮を送るときは、その警戒区域の少し手前のところで彼をおろす約束になっているので、そろそろ着くなあと思ってハンドルを握り直した。

ほう、と二宮が息をついた。身体がぴしりと固まる。

え、今なんでため息?心配してくれたの?俺が一人寂しくクリスマスを過ごすわけじゃなくて安心した?
…なんか心配かけてごめんね?ありがとう?

「紛らわしい…。」

そうだよな、俺ってまぎらわし、…ん?

「な、なにが?」
「おい、まがれ。」
「あっごめん。」

約束の場所までの道のりが最短ルートに決定した。
ちょっと寂しい。二宮の顔見たいけど、ここ道狭いからできない。安全運転しないと二宮怒るから。
ちらちらと二宮の様子を横眼に伺ってみても、さっきみたいにこいつは俺を見てくれている様子はない。

「ここでいい。」
「えっ。」

突然のセリフに驚いたが、通りの方から外れたせいか車がなかったので、言われた通りに車を止める。
いつもの場所はもう少し先だ。どうしたんだろ。

助手席の扉が開いて、二宮が身体を出したので流石に焦って俺もそっちに身を乗り出した。

「二宮!」

ついっと、二宮は横眼だけをこちらに向かせた。

「十一時。」
「は?」
「…迎えに来い。」
「、は、え?」

無慈悲にも二宮は呆然とする俺を放って扉を閉めた。
二宮が逃げるように出て行ったその時、彼の耳がほんのり赤くなっているように見えた気がした。





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