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今日の本部であった佐鳥は、俺を見つけると、ぱっと笑って苗字さーんと手を振ってきた。あーなんてかわいい。

「おう今日も佐鳥は元気だな。」
「佐鳥はいつでも元気ですよー。」
「そうだったな、ところで今日仕事は?」
「広報の方はさっき終わらせてきました!この後は自主練です。」

佐鳥はかわいい。そんでもってちょろい。
だめだよ佐鳥。そんな簡単に予定を教えちゃ。
世の中には下心満載で近寄ってくる人間がたくさんいるんだよ。例えば俺とか。

「そっか、じゃあ久しぶりに飯食いに行かね?」
「えっ!ほんとですか!」
「佐鳥の行きたいところつれてってやるよ。」
「うわあ!苗字さん太っ腹!すてき!」
「おう、じゃあ自主練終わったら連絡くれ。」

ちゃんと食べたいもん考えとけよーと言えばハンバーガーと叫ばれた。
身体に悪いと返せばはあいと少しだけ拗ねたような声が聞こえたので、今度は昼に誘おうと思う。

「思いっきりサイフにされてるよこの人。」

ドン引いた眼を俺に向けてぼんち揚げを食う後輩を、俺は問答無用でひっ捕らえて食堂まで連行した。

「え、え、何なになに。」

今俺めっちゃお前に会いたかったんだよね。


若いよなあ。女の子とハンバーガーが好きなものだって。胸張ってどんどん進んで行こうとして、でもやっぱり年相応なのがいいよなあ。健気で。

ボーダーの顔として頑張ってあちこち走り回ってへろへろになっててもいいはずなのに、そんなの微塵も出さずににぱって笑うんだぜ。かわいいよなあ。

なんで佐鳥?などという不躾な質問をかましてきた迅にそんなことを延々と語れば、最終的にははいはいそうですかと軽くあしらわれてしまった。
だからお前はかわいくない後輩なんだって。

「俺も若いけど。女の子好きだけど。」
「お前は触っちゃうからだめ。かわいくねえよ。」
「女の子好きを公言してる後輩は甘やかすくせになんで俺にはそんな冷たいんだよ苗字さん。」
「お前だけじゃないよ安心しろ。俺のかわいい後輩は今んとこ佐鳥だけだから。ちなみに今夜はそのかわいい後輩を食事に誘ったぜ。」
「えこひいきも甚だしい。」
「いけるかな?」
「うっわあ苗字さんサイテー。汚らわしい。」
「男はみんなオオカミだろ。」
「佐鳥逃げて超逃げて。」


ぼりぼりとぼんち揚げを食いながら遠い眼をしていた迅を思い出し、にやけが止まらない。ありがとうな迅、今度飯連れてってやんよ。
しかしそれよりも優先すべきはかわいいかわいい後輩のことである。

目の前で呆然と俺を見上げる佐鳥の濡れた下唇に触れる。しっとりとして、柔らかい。
ぴくりとその肩が揺れ、ほっぺたは赤く、眼がきょろきょろとせわしなく動くようになる。

「さぁとり、」

揺れ動く瞳が止まって、じっと俺を見つめる。
小さく小さくはいと返されて、俺は嬉しくて楽しくて。ぞわりとした快感が身体を走り、顔がにやける。

「お前はかわいいね。」

曝け出されたおでこまで真っ赤にしたかわいい後輩は、どうやらずっと俺に可愛がられたかったそうな。



20150908


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テーマ「人外ファンタジー」
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