WT | ナノ

電話で呼び出された仮眠室では、名前さんが一人きりで、コーヒーを飲みながらオレを待っていた。

「ん。」

雑に差し出された箱は、オレの片手にちょうど収まるくらいの長方形。見た目がすでになんかおしゃれ。
それが何か、いや中身はわかんねえけど何かは分かってて、それでもオレは名前さんに尋ねる。

「何コレ?」
「誕生日、おめでとう。」

うん、分かってたけど嬉しすぎてすごい今ヤバい。
落ち着いた声で向けられた言葉が、こんなに嬉しいとは思わなかった。
素直におきまりの感謝の返事を返せば、無言で頭を撫でられて照れた。あー、顔あっつ!

「な、あけていい?」
「お前な…家で開けろ。」
「ケチー、じゃあ今日名前さん家行っていい?」
「俺帰らねーぞ。」

かえらない。なんだと。
名前さんの口から出た衝撃の事実にはっとして顔を見上げる。ちょっとダルそうな顔にはくっきりと不健康そうな黒が眼の下に浮き上がっていた。
これから何徹目なんだろ、ちょっと心配になる。
ああいや違うそれよりも、

「祝ってくれねーの?」
「おっまえねー、ぐいぐい来るね?祝うけど。」
「今日帰んねーって、」
「あのなー、お前家でオカーチャン待ってんだろが。今日は家でしっかり祝ってもらえ。」

そりゃそうだけど、そうだけどさあ。
聞き分けの悪い子どもみたいには振る舞えない。
名前さんは大真面目にそう言って、今こうやってがしがし頭を撫でてくるのだ。オレはあしらわれてる。

誕プレが何かわかんねーけど嬉しいし、撫でられるのも嫌いじゃねーけど、やっぱりオレもそろそろ誕生日は好きなひとに祝って貰いたい。

でも名前さんの言葉は間違っていないわけで、朝からどうにもウチは俺に優しかった。
どうせオレがここで反抗しても、はいはいとか言っていなされちまうんだよなー。

「…へーい。」

あ、今不機嫌なの声に出た。はずかし。
複雑な気持ちになりながら名前さんの手をカンジュする。もう、ほんと好きだなって。思うのにな。

…好きなんだけどなー。オレと名前さんの愛のベクトルってやつ?がなー、ちがうんだろーなー。

まったく、名前さんはひどい大人だぜ。
ぐりぐりと髪をかき分けてくる指の持ち主は、オレがそんなウラミゴトを心で言ってるなんて、思ってないんだろうなあ。

「聞き分けいーな。」

そりゃあね、ずっとそうやってあしらわれ続けてきたんだし?学習くらいするって、

「もっとゴネるかと思った。」

ぽろっと落ちてきた言葉に、ん?と固まる。
顔を上げる。名前さんは小首を傾げている。
ちょっと、名前さんのフインキが違うと思った。

「え、」
「あ、違うな。…ゴネてほしかった。」

何かを思い出したみたいに、すっきりした表情で名前さんが笑った。手のひらが頭から離れる。

カチューシャが引き抜かれ、視界に黒が落ちてきた。
名前さんの指先がオレの顔をなぞっていって、手のひらが右の耳のとこを覆う。
なんだろ、落ち着かね。名前さん謎の色気出てるし。

「…名前さん?」
「今の俺は寂しかったのか。そうか。」

今のセリフ、心の声?めっちゃ漏れてるよ。
うん、落ち着かねえ。すげえ反応に困るんだけど。

「え、と?つまりそれは?」
「俺と誕生日過ごしたいって言って欲しかった。」


ぼっと、顔じゅうに熱が集まった。

なんで恥ずかしげもなくそんなこと言えんの。
そしてオレは今、猛烈に変な顔をさらしてるような気がしてならない。あー名前さんそんな微笑まないで!

声を出そうとして失敗して、言いたいことが頭ん中で山積みで、真っ赤であろうオレが変顔をさらしている間、名前さんはじっと見つめてきて、何度もゆっくりした手つきでオレに触れていた。

これは、これはもしかすると、いやもしかしなくても、今日はやっぱり一緒に過ごそうかってなる展開だったんじゃね?オレが選択間違わなかったらだけど。
そう確信した瞬間、舌の回りは早かった。

「わ、ンチャン、ある?」
「ないな。」
「ゴメンナサイもういっかい!」
「ないな。」

なんだよ今の完全にそういうフインキだったじゃん。
楽しそうで、嬉しそうな顔をした名前さんは、またオレの頭を雑に撫で回し、あげくの果てには仕事があるからといって、サクッと仮眠室から出て行った。

放置プレイだなまごろしだなんて、わめいたところで名前さんが止まるはずもなく、オレは一人取り残されたのである。

ひでえ、ひどすぎる。仮にも恋人じゃんオレ。

押し付けられたカチューシャを握って、もう片方の手にあるプレゼントを見る。
中身が何か、なんて全然考えつかねーな。

言いたいことは山ほどあるし、ちょっとさびしーけど、名前さんからもらった誕プレだし、期待してちゃんと家で開けようかな。
なんて健気な俺はそう思って仮眠室を出る。

…と、思うじゃん?
いやさあこんなひどいシウチを受けたオレはもうそれは傷ついたわけで、名前さんからの愛のプレゼントを開けないとこの傷は癒されねーんだよな。

ごめん名前さん!でも気になるんだよ!

心の中で謝って、若干震える指で箱を開ける。
ご丁寧に白い紙で包まれたそれを取り出すと、よく見るお高いブランドのキーケースだった。
はっきり言う。なんでキーケース?って思った。

そんでもって多分この時のオレには、カミサマってのがついてたんだろう。

おしゃれーな箱が手から滑って床に落っこちて、中に詰まってたものが全部ぶちまけられて、やべえって思ってたら聞こえた金属音。

無意識にそっちに眼がいって、銀色に光る、いつも名前さんが家に入るときに使うその形とそっくりのそれを捉えて、オレの謎は解決と同時に深まるばかりだ。

「…オレ、誘われてる…?」

米屋はコイビトのルームキーを入手した!


Happy Birthday Yosuke Yoneya!!



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -