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「名前さん。」

米屋の恋人という立場になって、早くも一週間。
なんら変わりなく流れる時間と、確実に変わった米屋の言動がなんだか噛み合ってないようにも感じ、疑問を浮かべては夜を徹する日々を過ごしている。

「オレが名前で呼んでるの、気づいてる?」

すました顔の米屋にそう言われて、俺は首を傾げてしまった。二人きりで開発室にいたときのことだ。
米屋の言葉に、驚きも新鮮さも感じない自分自身に少しだけ訝しさを抱き、そして黒々とした瞳が映し出す俺の顔をなんとも間抜けだと思った。

その音は耳に馴染んでいる。それが答えになっていると気付くまでどれくらい掛かったのか。

「…気づいてねぇんだ。」
「えっ、あ、いや、…すまん。」
「謝らなくていいって。」

そうかー、気づいてなかったのかー、と頬を緩ませる米屋に俺はまた首を傾げる。

「嬉しそうだなあ。」
「まーな。だって気づかなかったってのは、不自然じゃなかったってことだろ。」

にししと悪戯が成功したような、うれしそうな顔で笑う米屋に、そんなものかと思いつつ、俺もひらめく。
米屋の名前は、ようすけだったかな。

「よーすけ。」

その瞬間、ぽけーと惚けた表情はなんとも面白くて、もう一度ようすけ、と名前を呼んだ。
はっとした真っ黒な瞳が、気まずそうにそらされる。

「…名前さん、今度からそれで呼んで。」

じわりじわりと赤くなっていく頬を隠してしまう彼の姿は新鮮だ。ちょっかいを掛けたくなって、俺の口角はにやにやと変に上がる。

「うん、呼ぶけど。顔赤いよ、陽介。」
「ああもー、…誰のせいだと思ってんの。」
「誰だろうなあ、陽介。」
「絶対面白がってるだろ…。」

ようすけ、初めて声に出した言葉だ。
知っていても出す場面や必要がなかったその音を、まるで俺の口は言い慣れたものみたいにするすると紡いでいく。

「陽介、今日ウチくる?」
「、イキマス。」
「どうした陽介、いつもの元気は?」
「うっわー名前さん性格悪っ。」
「優しい名前さんは今のを聞き逃した。今日の晩飯は陽介も作れる簡単ハヤシライスにけってーい。」

オレが手伝うの前提とか信じらんねぇ、なんて文句をぶうたれた頭をぺしりとはたく。
どうせお前、俺がキッチンいたら見にくるんだから手伝う方が一緒にいれるだろ。




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