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弧月の調子を見て欲しいと頼まれて、久しぶりに米屋のトリガーをメンテナンスすることになった。
この間の任務中、嵐山隊の木虎とやり合ってから調子がおかしいのだと彼が笑うのを見て、俺は苦い顔をするしかない。
一応その時の話はすでに耳に入っているが、個人戦でもないのに身内同士が戦うというのはあまりいい顔は出来ない。そもそも隊務規定違反だ。

それでも、米屋がこうしてまた俺の隣で、弧月のメンテナンスが終わるのを待ってる姿を見るのは久々で、なんだかほっとしてしまうのは、それもこれも今の自分が相当参っているせいなんだろうなあ、とため息をつきたくなる。
かわいい後輩に気を遣わせるなんて嫌だから、吐き出すようなことはしないけど。

トリガーとモニター画面を見比べて、その手先の方に感じる視線を微笑ましく思いながら作業に集中する。
邪魔にならない、けれど俺の視界に少しだけ入ってくるその姿はやはり懐かしくて、心地がいい。


「疲れてんね、苗字さん。」
「…なんでわかるんだろなあ。」

問題なしだから存分に暴れてこい、そう言った俺からトリガーを受け取って、米屋はありがとうと一つお礼をいうと、先ほどのセリフを吐いた。
サイドエフェクトでも持ってんのかと聞いたら、俺がわかりやすいだけだと笑われた。

「大丈夫?」
「…んー、ぜーんぜん?」
「大丈夫って言わないとこが苗字さんらしい。」
「こう言っといたほうが周りは心配しねえから。」
「オレはすごい心配してるんだけど?」
「はは、ちゃんと想ってくれる後輩がいて、俺は幸せだなー。」

二人きりの部屋は静かで、何にも音がない分、相手の些細なところにも眼がいく。
見据えた真っ黒の瞳の中でゆるやかに燃え立つ感情を、俺は計り兼ねていた。

「なー、苗字さん。」
「なんでしょう?」
「恋人作るんなら多少リスクがあっても、社内恋愛のほうがいいと思うんだよ。ウチならなおさら。」
「お、おう…。」

ウチというのはボーダーのことを指しているのだろう。唐突なその言葉に、いまナイーブな俺の心は若干…いやかなり抉られたが、米屋が結構真面目な顔をして語ってくれるので大人しく聞くことにする。
つか誰から俺のカノジョの話聞いたの。今まで一回も言ったことねえはずなんだけど。

「だからって今から出会いを探そうとしても無理がある。苗字さんは古株だし、どう足掻いてもいい先輩もしくは親切なエンジニアさん。」
「ソウダネ。」
「でもさ、付き合った後の生活がしやすいことを考えると、ある程度苗字さんのことを知ってて、苗字さんも気の置けない相手のほうがいいじゃん。」
「あー…だなあ。」

確かに。ごもっともで、うんうんと頷いてしまう。
そんな俺を見て、米屋がすっと眼を細めて笑った。

「なー、苗字さん。」
「なんでしょう?」

あれ、なんかダブる。デジャブってやつ?

「オレとか、どう?」

あはは冗談。なんて言って笑おうと、出来なかった。





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