女主 | ナノ

赤葦というやつは、勤勉で、品行方正で、実に優秀な男子生徒である。
眉目秀麗、とまではいかないが、あのアンニュイな感じがいい、と女子の人気もあり、
さらっと男前な発言から男子からの指示も高い、人望のある男だ。
余談ではあるが、私個人も彼には日頃色々と世話になっている。

そんな赤葦のいいとこ取り、というか悪いところは元から少ないので良いところだけをピックアップしていきたいと思う。
と、いう謎のテンションで、私は赤葦の長所を探ることを決意した、某日の夜。

なにかあったのかと聞かれれば、そう。
それが恋愛沙汰かといえば、私個人のものではないので返答に困るところ。

名前ちゃんって、赤葦くんと仲良いよね、というもはや疑問系でなく断定してしまっているラインが、
クラスメイトのアヤコちゃんから送られてきたのは、その某日の夕方のこと。正直嫌な予感しかしなかった。
そこそこですかね、という返信の末、要約すると赤葦のことをなんでもいいから教えて欲しいという長い文章が送られてきて、
私はおおうと頭を抱えた。

これはまさに恋のキューピッチというやつではないのか。
というボケを前置きなしで唐突に友人へ送ったところ。

は?意味わかんない。てかキューピットの間違いでしょ?打ち間違い?
というなぜだか私を心配するような文が30分後に送られてきて、そうかまだ部活だったのかと少し申し訳ない気持ちになった。

取り敢えず自分のしょうもないテンションに部活終わりで疲れている彼女を付き合わせてしまった事を謝って、自分の今の心境をただ言葉にして誰かに聞いて欲しかったという事を伝えてトーク画面を閉じた。

問題はまだ解決していない。
はっきり言ってしまうと、私は赤葦をものすごく大雑把な、“いいやつ”というくくりにしか分類していない。
だから赤葦のいいところというのは、ぽつぽつとしか浮かばないのである。

例えば、小銭が足りなくてジュースが買えなかった時に奢ってくれたとか。
お腹すいたお腹すいたと連呼していた時にさらっと飴やらチョコレートやらを目の前に落としていってくれるだとか。
購買のパンを男バレの部長さんと取り合いになった時助けてくれたとか。

ここまでいうともうわかるかもしれないが、基本私は、食べ物関係で赤葦に助けられているのである。

若干、餌付けされている感も否めないがら、赤葦に限ってそんなことはありえないので、私も彼から物を受け取ってしまうのだが。

さて場面は変わって某日の次の朝。
アヤコちゃんには赤葦は親切で面倒見の良いお兄さん気質、よく飴やらチョコレートを持っているので甘党だと思われるという事を伝えて今日を迎えた私である。
正直、面倒見の良いお兄さんのお兄さんの所を、何度もお母さんと書き換えながら、
どちらが適当かを悩みに悩んでいたので、少し睡眠不足。ねむい。

たいして仲のよくないクラスメイトのために、なぜ私がここまでするのかといえば、頼まれごとは最後までやりきりたい派というか、
まあそんな感じの人間というだけで、特に深い意味はない。
すでに雑用をよく押し付けられやすい立ち位置に確立してしまっているので、結構慣れているといのが一番かもしれない。
あ、そういえばこの前全員提出のノートを運んで職員室まで来た時、赤葦が扉を開けてくれたのだった。
紳士とか付け加えときゃよかったな。

くあ、と開いた口を両手で隠していると、おはよーと少し間延びした声がした。友人である。

「おはやう。」
「なんで古語?」
「いとねぶたし。」
「あ、そういえば昨日のライン何。」

出会って数分、なるべくその話題には触れて欲しくなかったので、古語を使って興味を引こうとしたら、
逆に興味を無くされて呆気なく私の作戦は失敗した。

「ああー、うん、特に何も。」
「えー何よ、もしかして名前、恋?恋なの?」

大きな誤解が生まれた。
だがしかし焦るな私。ボロを見せてしまえば、揚げ足取られて騒がれるに違いない。

「違いますけどね。」
「ふふふ、照れない照れない。」
「照れてねえ。」

ホームルーム開始の鐘が鳴る。友人はにやにや笑いながら私を見ているので絶対に目を合わせない事にした。
ふと見ると、アヤコちゃんは今日も綺麗な編み込みをしている。すげえなあれ。



「で?何部のやつなの?運動?文化?」

ランチタイムの第一声がそれですか。と半ば呆れて見やれば友人は未だににやにや笑っている。
先ほどまで全然そんなこと聞いてくる素振りもなかったから、ちょっと安心していたのに。

「てか部活ですか、クラスとかじゃなくて。」
「おっ、やっと認めたなあ?さあ誰だ誰だ?」
「違うよ人の話聞けよ。」

なんだか段々疲れてきたので事の全貌を話すことにした、ごめんねアヤコちゃん。
友人のやらしいにやにや顔は消えてなくなり、かわりにぽかんとした表情になっていた。

「なんだあ、やっと名前にも春が来たと思ったのに。」
「余計なお世話だわあ。」

あはは、という笑い声がお互いから出た後、友人の表情がさっと変わった。

「やば、連絡しないと。」
「部員?」
「うん。」
「ラインでいいんじゃないの?」
「ケータイ教室!先戻ってるね!」

人間でごった返しになっている食堂を駆け抜けていく姿を見る限り、よほど大事なことなのだろう。マネージャーは大変だなあ。
早く食べよ、と最近はまっているふりかけご飯を頬張っていると、先ほどまで友人が座っていた席に影がさした。

「ここ、いい?」
「、どーぞ。」

赤葦である。机の上に置かれた二袋の菓子パンを見て、よく食べるなぁさすが運動部、と謎の感心。
小松菜の胡麻和えを頬張りながら、なんで赤葦がこんなとこいるんだろと考えていると、目の前の男は何か思い出したかのように小さく声を漏らした。

「好きな人できたんだって?」

反応が遅れて一拍空いた。

「え、誰の。」
「…苗字だろ。」
「なんで、あ。」

今先ほどまで私の目の前にいた友人は、彼と同じ部活だということを思い出した。
あいつ、まさか男バレで騒ぎやがったのか。

「違うよ。」
「野球部って聞いた。」

なぜだ。なぜそこまで話が膨らんでいるんだ。
ていうか赤葦も赤葦で、なぜそれを私に言うのか。あれか、楽しんでんのか。
ちょっとだけムキになって、考えなしに野球部をディスる発言をしてしまった。ごめん野球部。

「そもそも丸刈りより、ちょっとクセの見えるくらいの長さの方が私は好き。」
「、ふうん。」

若干、自分のタイプみたいになってしまったが致し方なし。
友人によるトンデモナイ誤解を解けるなら、苗字名前、恥を忍んでやりましょう。

「他には?」

赤葦さんあんた他にはって。続きを催促する眼に気まずさを覚えて弁当箱を見る。
え、これ言わないといけない感じ?こんな人がわんさかいるなかで?どんな羞恥プレイ?

しかしわたしが話さないと沈黙が落ちるので、とりあえず箸は止めて話すことに集中する。
けれどなんだか変な焦りが出てきて、ぽんぽんと浮かぶ、自分の中で好ましいものを私は考えなしに口にした。

「んー、話が合う人がいいね、甘いもの好きだったり。あんまり口うるさくない人がいい、でもちゃんと気にかけてくれる人。」

ほらワタシ末っ子だからー構ってちゃんなのー、わざとらしく明るい声を出す。
赤葦は何も言わない。え、反応もらえないときついんですけど、ちょっと。

「あ、あと、肌はあんまり焼けてないほうがいい。ひょろいのはやだな、うん、細マッチョいいよね。そうなると室内運動部…。」

はっとした。最後が切れの悪いものになってしまったが、それどころじゃない。
頭の中で組み込んだ外見のシルエットには、とても見覚えがある。

すいっと視線を上げると、信じられないものを見るように、赤葦が瞠目していた。
それに、シルエットがかちりと当てはまる。あ、これやらかしたやつ。

食べかけの弁当箱に蓋をして、さかさかと教室に戻る準備をする。

「え、おい、苗字。」
「ごめん食堂混んできたっぽいから出るね、あとマネジが大事な連絡あるみたいだから、あとで聞いておいたほうがいいよ。」

んじゃあね!顔は見ずに手だけ振って、人混みをかき分ける。

ああやらかした、盛大にやらかした。
たぶん、赤葦わかってる。絶対わかってる。

さっきの発言、暗に好きですって言ってるようなもんじゃないか。

ちくしょうめアヤコちゃん。これかなり理不尽だと思うけどお恨み申し上げる。
そして不甲斐ない私をどうか許してくださいまだ戻れる場所にいると思うんで。





20150211


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