女主 | ナノ

「そういえばさ、灰羽って結構かっこよくない?」
「ああ、確かに、ハーフでしょ?ロシアとの。」

昼食の焼きそばパンを咀嚼しながら、女子トークで盛り上がる二人に相槌を打っていると、急にそんな話題へと変わった。
意図的な何かを感じる。ちなみに灰羽くんといえば、ちょうど私の隣の席でもある。

「名前はどう思う?灰羽。」

ふと飛んできたそんな質問。
にやにやと私の反応を待つ二人を見て、ああ絶対楽しんでるなと内心ため息をついた。

「どうって…身長、高いよね。」
「他には?」
「他?」
「席隣じゃん、なんかない?」

と言われましても。焼きそばパンの最後を一口で頬張りながら、授業中の様子などを思い出す。

「んー、手が綺麗、とか。」

あとペン回しが上手、と付け足しておく。
しかし目の前の二人の反応が薄い。

「…手がキレイ?」
「うん。」
「なんでそんなとこ、いやなんでもないわ。」
「あ、そ?」

一人の友人がお花を摘みに行ってくると言って教室から出て行くのを見ていたのだが、灰羽くんを攫っていったので私は確信した。

「灰羽くんから何か言われた?」
「はっ?!」

驚きすぎである。なんて分かりやすい。
ついでに灰羽くんも分かりやすい。
朝から挙動不審すぎるのである。
何度もこっちを見るくせに、目を合わせようとすると思いきり逸らしていくのだ。

「え、な、なんにも?言われてないけど?!」
「うんわかったから落ち着こうね。」

自意識過剰、かもしれないが、ここまでくると断定していいのではないかと思う。

その後、帰ってきた友人に、男子と連れションですかやらしいとからかい半分で言ったら必死の形相でそれはないと諭された。


「苗字の手、ちっちゃ。」

ちまちまとプリントをめくっていると、ふと隣からそんな声がした。
言わずもがな、灰羽くんである。

「…男子と比べたらそりゃ小さいよ。」
「そんなもんか?」

好奇心のような光を灯した瞳に、悪戯心が湧いて口が滑った。

「じゃあ合わせてみようか。」
「え。」

半ば強引に右掌を突き出して、はやく、と急かす。

正直、この時の自分の心境をよく覚えていない。
多分もどかしかったんだと思う。
もどかしくて焦らされて、ちょっと耐えられなかったのだと思う。

そうして、おずおずというように差し出された掌を、自分の物とピタリと合わせれば、灰羽くんの手が震えた。
関節一つ分違った。握りつぶされそうだなと思った。

「おおー、やっぱり男子は大きいね。」
「、そうか?」
「うん、やっぱりバレーしてると大きくなるのかな、ボール片手で持てたり?」
「…余裕だけど。」
「へえ、かっこいいね。」

何気ない一言だった。ぽろっと出てきたそれに反応してか、ぴくーん、と彼の背筋が伸びた。
逸らされていた緑の瞳が、私にしっかりと合わせられる。
眼が、そらせなくなってしまった。

「それマジで言ってる?」

声が出なくて、代わりに頷いた。

「…そっか。そうかぁ。」

にこにこと嬉しそうにはにかむ灰羽くんに、これはやばいなと視線を外す。
見た目の割にシャイボーイな灰羽くんに、私は不覚にも、ときめいてしまったのである。





20150206


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