女主 | ナノ

丁度、購買で会ったパシられてるリエーフに、ついさっき監督から伝えられた週末の部活の予定を1年全員に伝言して貰おうと、呼び止めて口頭でそれ伝えている最中のこと。
ふと、真剣に頷きながら聞いていたやつの、

「、あ。」

エメラルドグリーンの瞳孔がきゅう、と狭まった。

それは段々と何かを追うように動くと、ついに首がその方を向く。

「…どした?リエーフ。」
「エッ。」

完全に意識を持って行かれていたらしい。おそらく、自分が声を出した事にも気づいていないのだろう。
ぱっとこちらに向き直るリエーフの眼には、僅かに焦りが見えた。

「あ、いや、なんもないっす。」
「なんか気になるもんでもあったか?」
「いやほんと、なんでもないんで!」

そんな必死になられると、逆に知りたくなってしまう。
口角が変に上がるのを感じた。リエーフの顔が歪む。

「クロさん、顔。」
「僕は元からこんな顔です。」
「変っす。てかなんかヤダ。」
「リエーフてめ、このやろ。」

正直なヤツだ。ついでに身体も正直だ。
…別に深い意味はなく、本当に。
ちらちらと脇目をやる先を辿ってみれば、一人の女子生徒がいることに気づいたのである。
また口角が上がる。こりゃ面白れェ。

からかうネタにでもしてやろうと、目を凝らして、女子生徒の姿を眺めてみる。
顔は、フツー。童顔だな。髪の毛はボブショート。へえ、短かいのが好きかこいつ。
体型は、平均よりちょい小柄、くらいか?太くもなく細過ぎることもなく。

「クロさん。」

ふと、真面目な声音が聞こえてきた。恐ろしく静かなそれに、内心やべえと焦る。
見過ぎてばれたか。そろりと視線をリエーフに上げる。

「何見てんすか?」

正直、人のもん見てんじゃねえよって聞こえた。
反射的にか、ごめんと謝罪が出てくる。あれ、なんで俺謝ってんの。
段々とリエーフの雰囲気が暗く、というか冷たくなってきて、空気が重い。

あーどうすっかなーなんて思っていると、突然、無表情だったリエーフの顔が華やいだ。

「灰羽。」

まごう事なき女子の声だ。俺は直感的に、この声の主はあの女子生徒なんじゃないかと思った。

「教室で、男子が遅いって言ってる。」
「マジで?わかった、あんがと苗字。」

オイオイ雰囲気変わりすぎだろ、と思いながら振り向けば、案の定、さっきまでリエーフが熱心に視線を送っていた女子生徒がカフェオレを手に立っていた。
彼女は俺を見ると、なんとなく納得したかのような表情で、またリエーフを見上げた。

「もうちょいかかりそう?なんならそれ、持って行っとくけど。」

大人しそうで、真面目ちゃんっぽい印象を持っていたが、ちょっと違うらしい。
少し砕けた喋り方で、リエーフが両手に持った菓子パンを指差す姿は、女子男子分け隔てなく接するフレンドリーな女子だった。

「え、あ、いや!大丈夫!」
「そう?なら、ばいばい。」

当たり障りない、クラスメイト同士の会話だった。
リエーフが眼で追わなかったら、気付きもしなかっただろう。
踵を返しかけた彼女に、焦った声が飛ぶ。

「ちょ、待って!」
「ん?」

リエーフ、お前今勢いで呼び止めたろ。
肩を竦めて事の成り行きを見ていれば、この男は散々唸ったりどもったりしながら、

「すぐ、終わるから、一緒に教室戻ろうぜ!」

と赤らんだ頬で叫んだのである。

当然、周りからの何事だというような視線が集まる。
しかし彼女はそれに気付いているのかいないのか、パックのカフェオレにストローをさしながら、簡単に承諾するのであった。



「目の前で青春を見せ付けられた気分です。」

実に気持ちよくない。と意地の悪い顔をする黒尾に、ため息をついた夜久が、

「見せ付けられたんだろ。全くリエーフも隅に置けねーな。」

悪戯っぽく笑っていたとかいなかったとか。




title:よいこのための角砂糖

20150204


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