CLAP THANKS
れんあいゆうぎ07
「カカシせんせー?待ってろって言わなかったっけ?」
掛けられた声はなるだけ明るい声で。だけど視界に映った表情は明らかに怒りを含んでいた。
「いやぁ…。ま、アレだ。美味そうな匂いに誘われてつい、な?ハハ…」
腰に手を当て仁王立ちしたナルトは、苦笑いしながら必死に言い訳するカカシを一瞥すると、しょうがないってばねぇ、とため息を吐きながらハイ、と盛り付けられた皿を差し出した。
「なに?」
「は?なに、ってそんなの手伝えってことに決まってんだろ?ったく。テーブルにズラーって並べてからハイどうぞ!って驚かせてやろうと思ったのに言いつけ破って覗きにきたのは誰だってば!それなら先生も手伝え。ホラ。コレとコレ、一緒に持ってって。」
「………はい。」
…怒られた。オレ、先生なのに。っていうかナルトの奴いつもとキャラ違うくない?こんなテキパキしてるところ、任務でみたことないんだけど。
言いつけ通り料理ののった皿を順に運び、コップや箸やらを並べ終えたところでナルトと向かい合わせで座る。いただきます。手をあわせてそう言えば。はい、召し上がれ。とナルトが笑顔で返した。なんだかソレが酷くくすぐったい。こんな風に食事をするのは久しぶりだからかもしれない。それに、どういうわけだが並べられた料理は好物ばかりでなんだか特別な日の食卓みたいに思えた。というかナルトはオレの好みをわざわざ調べたのだろうか。だって、コレが偶然なんてありえない。
「おいしいってば?」
「うん、おいしいよ。」
「そっか、よかった。」
「………。」
あぁ、くすぐったいと感じるのは誰かと食事を共にするのが久しぶりだとかそんなんじゃなくて。…ナルトの笑顔のせいだ。いつもみたいにイタズラっ子のような笑みでもなく、子どもらしい無邪気な笑みでもなく。ふわり、包み込むような柔らかくて優しい笑顔。こんな顔は知らない。だから目の前にいるナルトがナルトじゃないみたいで。
「…ねぇ。オレの好物、わざわざ調べてくれたの?」
「ん?あぁ、うん。だって先生に喜んでもらいたかったから。まぁ、これから先ずっとこのメニューは勘弁な!明日はオレの好きなもん作るってば。」
ホラ、またその笑顔。それに何サラリとそんなこと言っちゃってんの?もうホントわけわかんない。誰なのコイツ。こんなの、オレの知ってるナルトじゃない。
「…オマエさ、普段と随分違うくない?」
「へ?」
「普段は不器用でドジばっかりしてるくせに料理は上手だし手際も良いし。まるで別人。」
「失礼だってばねぇ。まぁ、そう言われてもしょうがねぇけどさ。オレ、料理に関しては才能あるみたい。イルカ先生にさ、教わったの。オレがあまりにも野菜食わねぇってかラーメンばっかだから、オレでも食える野菜を使った料理を中心に教わった。うん、アレはキツかった。イルカ先生凄ぇスパルタだったかんな。」
「………。」
ナルトが慕う恩師の名が出てきたとたんにモヤリ。胸の中に黒い何かが広がる。こんなのは初めてで、その原因がわからない。
「じゃあナルトが作ったご飯、イルカさんも食べたことあるんだ?」
「まぁそりゃあ教わってる時は一緒に作ってるわけだから食べたことになるんじゃねぇの?」
「…そう、」
あ、広がった。
さっきできた黒い何かがモヤモヤと渦巻いて、胸の中を一気に埋め尽くす。
「でもオレが誰かのために一人で作ったのは初めてだし、作ってあげたいって思ったのも先生が初めてだってばよ。」
「……ッ!」
今の今まで埋めつくしていた黒い何かが一瞬にして消えてなくなった。…一体アレは、なんだったんだろう。