「ナールト。今日は任務も早く終わったことだし、一楽でも行くか?」
「ごめん、せんせー。オレ、イルカせんせーと約束あんだ。」
「そっか、なら仕方ないね。」
「ほんと、ごめんってば。」
「いいよ、いいよ。気にしないで。また今度行こうな。」
気にしない、気にしない。先約があるなら仕方ない。うん、オレだってもう立派な大人だ。ナルトは大好きなラーメンを。オレは大好きなナルトと過ごす時間を。互いにとって損のない、それでいてオレの下心がバレない素敵な提案を断られたからといって拗ねるほど子供じゃあない。例えそれが、他の男、しかもあの子にとって一番大きい存在であるイルカさんが相手であってもオレは断じて拗ねてなんかいない。だって、あの人はどう考えても安全パイだ。あの子が心を許すということは、あの人に決して疚しい気持ちがないからだと思う。少しでも疚しい気持ちがあるならきっとナルトは気づくだろう。あの子は人の心の内を悟ることにたけている。憎悪はもちろん、好意であったとしても、下心をもった大人になつくとは思えない。だからオレも、積み上げてきた信頼を崩さないように、下心はバレないように細心の注意をはらいつつ、ナルトとの距離を縮めているのだ。だからここで、あんな中忍との約束なんかよりオレと一緒にラーメン食べようよ、なんて、思っていたとしても絶対口に出してはいけない。だから気にしない。気にしてはいけないのだ。また次があるだろ?
「ナールト。先生、今日はもう用事ないから修行見てやろうか?」
「え、マジ!?あ、でもイルカせんせーと約束が……ごめんってば、せんせー。」
「…そうなの?仕方ないね。じゃあ、ホラ、早く行っておいで?」
「うん、ごめんな!せんせー!」
またイルカせんせー
昨日は一楽、今日は何?…って、あぁ、そんなこと思っちゃいけない。あの人は大丈夫。大丈夫、なはず。明日こそ。
「ナールト、」
「ごめん、せんせー」
まだ大丈夫。明日がある。
「ナルト、今日は…」
「…ごめん、」
大丈夫、だよね?明日はきっと。
「ねぇ、今日こそ…」
「ごめんなさい、ってば。」
ナルト、ごめん、ナルト、ごめん、ナルト、ごめん、ナルト、ごめん。
もう、何度目だろうか。あの人の元へと去っていくこの子の背中を見るのは。
毎日毎日イルカせんせー¢Oはそんなに会ってなかったじゃない。なのに突然。イルカさんは、ただ純粋に、家族のように、ナルトを大事に思ってるだけだよな?ナルトにとって、イルカさんは、初めて自分を認めてくれた恩師、ってだけだよな?…二人の間に恋愛感情なんか、存在しないよね?だってそんなの、誰よりも先にナルトが心をひらいたイルカさんに、オレが勝てるわけないじゃない。
ただの勘違いならそれでいい。もしかしたらイルカさんを理由にオレを避けてるだけかもしれないし……、え、避けられてる?なんで?まさか、オレの気持ちに気づいて?ごめん、って、つまり、オレの気持ちに対してのごめんなさい?そんなの、あんまりじゃない。だって、オレはまだ、好きって伝えてないんだよ…?
夕暮れ時。左手はポケット、右手は小さな手を握って、今日の任務はどうだったとか、サスケがムカつくとか、サクラちゃんは何でサスケなんかがいいんだとか、もっと強くなりたいとか、せんせーは遅刻しすぎだとか、ちゃんと話聞いてんの?とか、たわいもない話をしながら報告書を出しに行ってから、賑わう商店街を少し歩いてラーメン食べて、すっかり暗くなった空の下、もう少し一緒に居たくてわざとゆっくり歩く帰り道。ラーメンを食べている時以外繋いだ右手は離さないまま。好きだから、それ以上のこともしたいけど、好きだから、たったそれだけのことが幸せだった。だけど今、それはオレじゃないあの人のもの。
あぁ、ホラ。あの子の温もりを感じない、冷えきった右手をポケットに閉まってあてもなく歩くオレの前を、あの子はオレじゃない右手をしっかり握って楽しそうに笑ってる。どうしてこうなったんだろう。オレの何がいけなかった?あの人は良い人だ。わかってる。だけど、あの人さえ居なければ、なんて、恐ろしいことまで考えてしまう。いつからこんなにも嫉妬深くなったんだ。最近じゃ、何かと喧嘩しているサスケにまで嫉妬してる。ナルトに気があるから突っかかるんじゃないの?って。オレってこんなだったっけ。来るもの拒まず、去る者追わず、だったオレが、部下の男の子にうじうじと。あぁ、情けないなぁ。よし、決めた。明日も断られたらもうやめにしよう。好きって伝えて、きっぱりフラれたらこんなにうじうじ悩まなくてすむかもしれない。フラれること前提で告白するなんてほんとバカだと思うけど、こんな惨めな思いをするのはもう嫌なんだ。