すれ違い

慌ててうちへと駆け込んで来た累のお母様が言うには、「累が人喰い鬼になってしまった」と


そんな、まさか


あの優しい累が、そんなはず…



そんなことを思うが、私の胸には嫌な予感が渦巻いて仕方なかった


累のお母様と累のお屋敷に行くと、締め切った暗い部屋のなかに、累がいた


『…る、い…?』


振り返った累の姿は以前と異なってしまっていて、黒かった髪は白くなり、顔には模様が浮かび上がっている


「…みのり。来てくれたんだ。僕、強くなったよ。君を守れるくらい、強くなった」


『…る、い…』


累が音もなく私と距離を詰めてくる


「これでもう、お前と…」


それだけ言うと、累は私の頬にそっと掌を添え、優しく微笑む


まるで、人喰い鬼だなんて思えない


でも、部屋の中には人の亡骸と血があって、嫌でも現実味を帯びてくる


『累…累はどうして鬼なんかに…』


私がそう問いかけると、累は呟いた


「…どうして…?」


うつむき、なにかを考える累


「…僕は…ただ…」


そう言ってぶつぶつと呟く累が、なんだか寂しそうに見えて、私はそっと累を抱きしめる


「…みのり…?」


累がはっとした様子で私の名前を呼ぶ


『…鬼になんてなることなかったのに。寂しかったのなら、私がずっとそばにいてあげるよ。言ってくれれば私が累の寂しさを埋めてあげたのに』


そう呟くと、累は無意識なのか呟く


「…でも、お前は、これからお嫁に行くだろうし
…人間の弱い僕じゃ…守れない…」


『…!!…そんなこと思ってたの…?』


私は累が好きだったから、何があっても累のそばを離れなかったのに…


『累…累…ごめんね…』


私は累を抱きしめ泣いた


ごめんね、ごめんねと何度も呟きながら


累は無表情のまま、抱きしめられていた










「…僕はただ、お前を守りたかっただけなのに」












+累視点


「お前の願いを叶えてやろう」


鬼舞辻様は、そう言って僕を鬼にしてくれた


これで、僕はもう弱くないし、みのりを守れるくらいの力を手にいれることができた


きっと、みのりも、母さんたちも喜んでくれる


…そう、思ったのに…









反応は、反対だった


母さんと父さんは人を喰ったぼくを見て悲しみ、"みのりになんて説明すればいいか…"なんて呟いてる


大丈夫、みのりは受け入れてくれるから





その日、みのりが屋敷に来てくれた


僕は振り返って微笑む


「…みのり。来てくれたんだ。僕、強くなったよ。君を守れるくらい、強くなった」


『…る、い…』


期待とは裏腹に、みのりの表情は青ざめていた


「これでもう、お前と…」


それだけ言うと、僕はみのりの頬にそっと掌を添え、優しく微笑む


みのりの視線が動いたから、部屋にある死体をみたんだろう


ちっ…片付けておけば良かったな…


『累…累はどうして鬼なんかに…』


みのりがそう問いかけてきて、僕は呟く


「…どうして…?」


うつむき、考える


「…僕は…ただ…」


わかってないんだね


僕はただみのりを守りたくて鬼になったのに


そう思ってぶつぶつと呟やいていると、みのりがそっと僕を抱きしめて来た


「…みのり…?」


僕はっとしてみのりの名前を呼ぶ


『…鬼になんてなることなかったのに。寂しかったのなら、私がずっとそばにいてあげるよ。言ってくれれば私が累の寂しさを埋めてあげたのに』


そう呟くみのりに、僕は無意識で呟く


「…でも、お前は、これからお嫁に行くだろうし
…人間の弱い僕じゃ…守れない…」


『…!!…そんなこと思ってたの…?…累…累…ごめんね…』


みのりは僕を抱きしめて泣き始めた


僕はその理由がわからず、ただそのまま待っていた






すれ違い

(気持ちがすれ違っていく)

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