九話


しのぶさまにいろいろな見繕ってもらったあと、私は冨岡様の待つ客間へと向かっていた


客間の扉を声をかけてから開けると、冨岡様の視線がこちらを向いた


「…終わったか」


『はい。お待たせしました』


「いや、大丈夫だ。…いくぞ」


先ほどとは違い、冨岡様は立ち上がり私の隣まで来ると、私の手を取り、ゆっくりと歩き始めた


「…」


いつもと違う様子に、どうしたのかと冨岡様のお顔を見つめるも、彼は前を向いたままこちらを見ることなく歩いている


玄関まで着くと、私の下駄を出して並べてくれた


「…これでいいか」


『え?あ、はい…ありがとうございます』


冨岡様のさしだしてくれた手に自分の手をのせ、下駄をはくと、冨岡様はそのまま私の手を握り、歩き始めた


(…どうしたんだろう。冨岡様、いつもと違う…)


なにか変なものでも食べたんだろうか、なんて失礼なことを考えつつ、彼の斜め後ろを歩く


冨岡様が向かったのは、蝶屋敷の近くの神社のお祭りだった


『わぁぁ…!』


出店が並び、提灯が飾られている通りの奥に、神社がある


私がキョロキョロと辺りを見回しているのを、冨岡様は少し微笑みながら見ていた


「…どこか見たい店はあるか」


『えっ、あ…』


冨岡様にそう声をかけられ、私は出店を見回す


りんご飴も美味しそうだし、金魚すくいにもひかれる…


どのお店にするか悩んでいると、冨岡様が無言で私の手をひき歩き出した


(どこか行きたいお店でもあったのかな?)


そう思いながら着いていくと、冨岡様はりんご飴の屋台へと向かった


屋台でりんご飴を買うと、私に差し出す


「…食べたかったんだろう?」


そう言われ、私は頬が熱くなる


『…顔に出てましたか?』


冨岡様は少し微笑みながら頷く


ますます熱くなる頬に片手を当てて、冨岡様からりんご飴を受け取った


『…食べてもいいですか?』


そう問いかけると、冨岡様は頷く


『ありがとうございます』


微笑んでお礼を言ってから、りんご飴を口に含んだ


『…甘くて美味しいです』


そう微笑みかけると、冨岡様は表情を緩めた







夏祭り

(…でも、どうして私を誘ってくださったんだろう…)



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