やさしいひと/義勇
冨岡さんに保護されて数日
冨岡さんは任務があるらしくお屋敷には帰ってこないのに、私はお屋敷の中で自由に生活していた
結局、何もわからないまま時間だけが過ぎていっていた
『…あー…暇すぎて溶けそう…』
「人間は溶けませんよ」
『え!?』
庭で足をぶらんぶらんさせながら呟いた言葉に返事が帰ってきたので、驚いてそっちの方に顔を向けると、黒髪で毛先が紫色の美人な女の人が隣に佇んでいた
え、誰?このお屋敷の人?でもここに来てから数日誰にも会わなかったし…
「ふふ、そんなに百面相しないでください、私は胡蝶しのぶと言います。冨岡さんの同期です」
『へ…?』
私の顔を見て笑いながら言われた言葉にすっとんきょうな返事しかできない
百面相…していただろうか…
「冨岡さんに言われましてね。あなたが暇を持て余しているだろうから相手をして上げてほしいと」
『え、冨岡さんが?』
あの人が…?
私は目をぱちくりとさせる
「はい。あなたのことを心配していましたよ。急に実家から連れ出してしまったから、不安がってないかと」
言葉には出してませんけどねと続ける胡蝶さん
…あぁ、あの人は不器用なだけで実は優しいのかもしれない
そう思った
胡蝶さん(しのぶさんでいいと言われた)は、冨岡さんと同じ、鬼滅隊の"柱"という役職の人らしい
その日はしのぶさんと話をして、冨岡さんの帰りを待った
すると…
ざっ…
「あら、お帰りですね」
『え…?』
しのぶさんが笑顔で前方に視線をやってそう言うので、私も習って前方に目をやると、冨岡さんがこちらへと歩いてきていた
…帰ってきた
私は目を丸くする
いや、当然なのだけれど
何故か、すごくほっとした
私が自然と立ち上がると、しのぶさんがとん、と背中を押す
『っ!?、え、?』
「ふふ、行ってあげたいんでしょう?お迎えに。行ってらっしゃい」
『っ!はい!』
私はしのぶさんに笑顔で見送られ、冨岡さんの元へかけていく
私が冨岡さんの元へ着くと冨岡さんは止まる
「…どうした」
『あの…その…おかえり、なさい。お迎えに、来ました』
もじもじしながらそう言うと、冨岡さんは目を丸くしてから、ふっと笑って
「…ああ」
と言って頭を撫でてくれた
その行動になんだか安心して、私は笑った
やさしいひと
(不器用な人から優しい人へ)