28:失っても、失っても


「…なんで人と鬼が連れ立ってるんだ…」


鬼は不思議そうに呟いた後、また沼に潜って行った


『…炭治郎くん、どうする?』


私が炭治郎くんに目配せして問いかけると、炭治郎くんは迷いなく言い切った


「俺があの鬼を相手するから、みのりは和巳さんと女の人を頼む」


『わかった』


私は炭治郎くんから離れ、和巳さんのもとへと向かった


刀を構えたまま、耳をすます


『…!』


来る!


素早く地面から出てきてこちらを攻撃する鬼に、私は刀を振るう


…だが、避けて沼に逃げ込まれてしまい、倒し損ねた


私は最終選別でのことを思い出した


あのときも、鬼を倒したのは炭治郎くんで、私は鬼に飛ばされ、何の役にも立っていなかった


ぎりりと歯を食い縛る


(私は…私はまだ、足手まといなままなの…!?)


だが…私が考えごとをしていても、鬼は待ってくれない


炭治郎くんより私が弱いと確信したのか、鬼は次々と攻撃を繰り出してくる


私は和巳さん達を守るのに手一杯で、鬼を切ることはできなかった


『くっ…!』


「…っ!みのり!!後ろ!!」


『え…!?』


炭治郎くんの声に振り返ると、炭治郎くんと対峙していたであろう鬼が、後ろから攻撃を仕掛けてきていた


(間に合わない…!)


せめて、和巳さん達だけは…!


私は渾身の力で地面を切りつけた


それに鬼が怯んだ隙に和巳さんの方に、面についていた藤の花をちぎって投げる


ちょうど和巳さんが抱いていた女の人の上に落ちたので、叫ぶ


『その花は鬼を寄せ付けない効果があります!離さないで!』


「!で、でも…!」


和巳さんは、鬼が迫る私を心配そうに見るが、私は和巳さんに微笑みかける


…たとえ、ここで散ったとしても、人を守れたなら十分だ


そして、死を覚悟したとき…


《お姉ちゃん!》


「んーーーっ!」


女の子の声が聞こえた気がして、閉じかけた目を開くと、禰豆子ちゃんがものすごい早さで走ってきて、鬼を蹴り飛ばした



禰豆子ちゃんは、私を庇うように前に立つと、私を心配そうな瞳で見つめる



《大丈夫?お姉ちゃん》


まるで、そう言っている様だった


「みのり!大丈夫か!?」


『っ、炭治郎くん…禰豆子ちゃん…』


鬼と対峙したままなのに、私を心配する二人に、思わず泣きそうになる


(…この二人の、足手まといにはなりたくない。二人と…生きたい…!)


そう思った瞬間、体が軽くなった気がした


私は素早く鬼に切り込み、三体のうち一体の鬼の胴体を切った


「な…に…!?」


鬼はこちらを見て驚いているが、切った所からだんだんと消えていく


「みのり!」


『ごめん炭治郎くん!もう大丈夫!』


炭治郎くんの声が少し嬉しそうに聞こえて、それがまた私に力をくれた


その後、禰豆子ちゃんと共にもう一体も切り、残り一体となった


その相手は炭治郎くんがしていて、私はいつでも助けが出せるよう、和巳さん達を庇いながら、準備をしていた



…しかし、鬼に鬼舞辻無惨のことを聞いても、鬼からは恐怖の音がして、答えてくれない


またこちらを攻撃しようとしたため、炭治郎くんが切った


鬼の音が消えて、安堵して刀をしまった



『…和巳さん、大丈夫ですか?』


私がそう聞くと、和巳さんは悔しそうに唇を噛み、うつむいた


大切な人を失った悲しみは、きっと、今は何をしてもどうにもならないだろう


私はその思いを音から察し、俯く


…すると、炭治郎くんが歩いてきて、和巳さんにいう


「…和巳さん」


「…」


「失っても、失っても…前を向いて、歩いていくしか無いんです」


「…っ!」


和巳さんがはっと息を飲む


そう諭す炭治郎くんの表情は、とても少年の表情とは思えなかった


「…それじゃあ、俺達は行きます。…いくぞ、みのり、禰豆子」


『…うん』


「…そうだ。これ…この中に、里子さんの遺品が、あるといいのですが…」


炭治郎くんが差し出したのは、鬼から奪い返した、鬼に喰われた女の人たちの簪たちだった


それを受け取った和巳さんは、ボロボロと泣き出してしまう


その思いを考えると、私まで胸が締め付けられた



「…いくぞ」


『うん…』


禰豆子ちゃんをしまい終えた炭治郎くんに声をかけられ、私は歩き出す


「…その女の人のこと、よろしくお願いします!」


炭治郎くんがそう声をかけると、和巳さんは何度も頷いてくれた






失っても、失っても

(私たちは、生きているから)
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