アングレガムに誓いを
不死川の口から語られた真実は、まるで小説の1ページのような不運の連続で聞いている私でさえ苦痛で顔を顰める程だった。
父親からの暴力がエスカレートし卒業式を待たずに遠縁を頼り母親と兄弟を連れて引っ越したと言う。
一年遅れで大学に入学し教員免許を取得した後、自分だけ此方に戻ってきたのだとか。
初めて赴任した学校では相談に乗っていた一人の女子生徒に執着されるも大事にしたくないからと有耶無耶にしていたらストーカーに拍車がかかってしまったらしい。どんなに頑張っても一向に気持ちを向けない不死川に腹を立てた女子生徒は、先生に無理矢理襲われたと騒ぎ立てそれが問題になり学校を去った。後に冤罪だった事が証明されるも彼にはあまりにも辛く苦い経験だっただろう。
そんな事があって悲劇を繰り返したくないから既婚者の振りを装っていた。
「それでも教師を続けてんのは、名前の存在があるからだろうなァ」
「…私を好きって素振り、全然無かったじゃない」
「お前、鈍感だろ」
「そ、それは否定出来ないけど」
「俺は態度に出してたぜ」
ソファーの軋む音が静寂に響き渡ると同時に抱き寄せられる。
「結婚すんなら、名前以外考えらんねェ」
「今も私が不死川の事、好きだと思う?」
「あァ」
自信げに即答する彼を見上げれば触れるだけのキスをした。
「俺以外の男に興味無いって顔してんじゃねェか」
「不意打ち…狡い」
「仕方ねェだろ、したかったんだ」
額をくっ付けて笑い合えば、どちらともなく唇を重ねる。味わうような口付けは甘く深く蕩けてしまいそうになる。
もう離れたくない。離したくない。
不死川と、二人で幸せになりたい。
「不死川、好き」
「俺の方が好きに決まってんだろ」
「百歩譲って同じって事にして」
彼の薬指から指輪が消えた。
もう偽らなくても、これからは私が、
ずっと、傍にいるから。
───────
「まさか、名前ちゃんの好きな人が不死川さんだったなんて全然知らなくて、うっかり話してごめんね」
「あの歓迎会の時、蜜璃ちゃんが話題にしてくれたから、今があるんだよ。本当にありがとうね」
「私が二人の愛を繋げたの!?」
「まァ、そうなるなァ」
「次は、蜜璃ちゃん達の番だね」
蜜璃ちゃんの隣に佇む伊黒さんの方へ笑顔を向ければ、二人ははにかみ微笑んでいる。
「不死川、苗字。結婚、おめでとう」
「ありがとうございます!」
これから、実弥さんと共に歩む未来は、いい事ばかりじゃないだろうけど。
二人でなら、どんな障害も絶対に乗り越えて行ける。
この先、何年何十年経っても、彼の傍らに寄り添い手を繋いで歩いていくんだ。
今、彼の薬指には、私とお揃いの指輪がはめられている。
苗字名前。
今日、11月29日
不死川名前になります。
-End-
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