アングレガムに誓いを | ナノ


アングレガムに誓いを
「明日は休みだし歓迎会やろうぜ」


自称お祭り男の宇髄さんが発した一言で急遽行われる事になった飲み会。一次会で終わった試しが無いので翌日が休みじゃないと開かれない。いや、開けないが正しいか。
気乗りしない飲み会程、憂鬱なものはない。こっそり帰ってしまおうかとも考えたけれど、こんな日に限って放課後次々と用事を押し付けられる。全ての業務を終えた頃には飲み会メンバーが玄関先に集合していて参加するという選択肢しか残されていなかった。


「あれ、悲鳴嶼さんが来てませんけど」

「家庭の事情で来られないそうだ」

「…羨ましいなぁ」


思わず漏れた本音に冨岡さんが黙って頷いた。
そう言えば一番の被害者は冨岡さんだったっけ。毎度ラストまで連れ回されているもんね。


「名前ちゃんも要領良く逃げないから終電逃すんですよ」

「しのぶちゃんの真似しても絶対見つかるんだけど」

「宇髄さんに捕まってますものね」

「今日こそ終電前に帰りたい」


チラリと宇髄さんの方に目を向ければ本日の主役である不死川にお酒を勧めている。その光景が二年前の自分と重なって見えた。懐かしいなぁ…あの時は朝までコースで二日酔いなんて生易しいものじゃなかったわ。


「今日のターゲットは不死川みたいだな」

「あら、心配しなくても冨岡さんは最後まで付き合わされますよ」

「俺に拒否権はないのか」

「嫌なら嫌って言えばいいじゃないですか。言えたらの話ですけど」


落ち込む冨岡さんと慰める振りをして楽しんでいるしのぶちゃん。目の前では大食い選手権かと思う程モリモリ食べている煉獄さんと蜜璃ちゃん。そして蜜璃ちゃんを見守る伊黒さんと個性豊かなメンバーが揃っている。肝心のまとめ役である悲鳴嶼さんが不在ともなれば枷が外れたかのようにエスカレートしていく。


「おら、冨岡。もっと派手に飲めよ」

「俺に構うな」


なるべく絡まれないようにと端の方へ避難すれば不死川もまた同じように移動してくる。すると一頻り食べ終えたのか蜜璃ちゃんが言葉を投げかけてきた。


「不死川さんは名前ちゃんと同級生なんでしょう?」

「あァ、そうですねェ」

「それなら、名前ちゃんの恋してる相手も知ってるかしら」

「…ぶっ!」


あまりにも突然すぎてチューハイを吹き出し煉獄さんにかかってしまった。ごめんなさい煉獄さん!不可抗力なんです。


「苗字、汚いぞ」

「あぁっ、煉獄さんすみません!」

「うむ!気にするな」


煉獄さんにティッシュを手渡して謝罪している間にも蜜璃ちゃんは不死川に話聞かせていた。


「卒業式の日にね、告白しようとしたんだけど、お相手の人が来なかったんだって。その時の事をずっと引き摺っていて人を好きになれないらしいの」


蜜璃ちゃん…。あなた何て事を言うの。何で全部話すの。その相手が不死川だって言わなかった私も悪いけどさ。


「不死川、顔が真っ赤だぞ。飲み過ぎたか?」


伊黒さんの言葉を聞いて横に座る不死川の方へ恐る恐る視線を向ける。


「…酔い、冷ましてくる」


耳まで赤く染まった彼と一瞬目が合ったが、直ぐに逸らされその場を逃げるように出て行ってしまった。
その様子を見ていたであろう伊黒さんが今度は私に声を掛ける。


「苗字、お前は顔が青いぞ。大丈夫か?」

「急に、体調悪くなりました」

「…甘露寺が余計な事言って悪かった」

「えぇ!?私、名前ちゃんの力になりたくて聞いただけなのに」

「止められなかった伊黒さんの責任ですからね」

「…すまない」


こんな形で自身の想いが伝わってしまうと、誰が予測出来ただろうか。


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