アングレガムに誓いを
運命は時に残酷なもので、
なんて歌詞のフレーズみたいな言葉が、ふと脳内に浮かんだ。
これが恋愛ドラマのワンシーンだったなら神様から与えられた試練だと躍起になって乗り越えていくんだろう。
「久しぶりだなァ、名前」
「そう、ですね」
彼が消息を絶って数年。高校生だった頃はあんなに仲が良かったのに、どんな会話をしてたとかどんな風に接していたか、全くと言っていい程思い出せない。音声のない回想シーンは楽しかった日々の記憶を蘇らせてくれたけれど距離感までは教えてくれなかった。
「…何でそんなに余所余所しいんだよ」
「そんな事は無いでしょ」
「嘘吐く時の癖、変わってねェな」
そんな事、何で未だに覚えてるのよ。胸の奥深くで燻っている想いを煽るような真似…しないで。
胸の内を悟られないよう平穏を装ってみせるも予想以上にダメージは大きくて限界到達はすぐそこまで迫っていた。
「おーい、名前。昼飯どうするよ?」
空気を察したかのように絶妙なタイミングで声を掛けてくれたのは宇髄さんだった。
流石周りをよく見ていらっしゃる。今だけは感謝します。
「今日は宇髄さんが買い出しの番でしょ」
「そうだったか?」
「何でもご馳走してくれるって言ってましたね」
「それは絶対言ってねぇな。騙そうとした罰で、お前も一緒に来い」
返事も待たず強引に腕を引っ張られ職員室を後にする。
途中で擦れ違う生徒には哀れむような眼差しを向けられるし道行く人々は好奇の目で見てくるしいい加減に解放して欲しいんだけど。
「お前、あいつと知り合いだったのか?」
「不死川さんは高校の同級生です」
「そうか元彼ってやつか」
「なっ、違いますよ。…仲は良かったけど」
そう思っていたのは私だけ、だったんだよね。
何も言わずに突然私の前から姿を消した。
どんな経緯があったのか、理由はわからないけど行先も告げず連絡も取れなくなったのは事実。
彼にとって私という存在は、単なる通過点にしか過ぎなかった。
「名前」
「何ですか」
「既婚者は後に色々面倒な事になる。過ちは犯すなよ」
「…過ちなんて、有り得ないですよ」
「それなら、いいけどよぉ」
そう、過ちなんて起こる事はない。
私の想いは、ずっと一方通行。
決して交わる事のない、片想いなのだから。
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