年の瀬も近づき天元さんと初めて迎えるクリスマスがやって来る。
彼と出逢ってから沢山の初めてを貰ってきたけれど、貰うばかりで何も返せていない事がずっと胸に引っかかっていた。
いっぱい与えてくれるけれど欲しがらない。
だから、クリスマスは想いをたっぷり詰め込んだ贈り物をしたい。
「あ、俺24日は忘年会だったわ」
「そっか、わかった」
「25日じゃ駄目か?」
「シフト入ってて、店頭販売するから帰りが何時になるかわからないの」
「名前が仕事終わるまで待ってっから25日にしようぜ」
「うん」
仕事絡みの付き合いならば仕方ない。クリスマスイヴは何も今年だけじゃないし来年まで楽しみが延びただけの事。
その代わり25日は一緒に過ごせるんだもん。
どんなプレゼントにしようかな。
きっと何を贈っても喜んでくれるだろうけど、私としては天元さんが本当に欲しいものを渡したい。
ここは一つ彼の身近にいる同性にリサーチしてみるか。
翌日コンビニに訪れた伊黒さんと不死川さんに聞いてみる。
「俺は甘露寺から貰えるなら何でも嬉しいが」
「…なるほど。全く参考になりませんね」
「宇髄だって、苗字から貰えるならば何でも喜ぶだろう」
「それはわかってるんですけど…」
「お前、惚気け聞かせる為に呼び止めたのかァ?」
これでもかって程に不機嫌な面持ちの不死川さんに慌てて首を振り否定する。
「ち、違いますよ。不死川さんは何を貰ったら嬉しいですか?」
「俺が欲しいモン聞いてどうすんだよ。あいつに直接聞きゃあいいじゃねェか」
「それじゃ意味ないでしょ」
「名前、お前自身をくれてやれや」
「…私は、物じゃないです」
大きく息を吐いて店内の清掃作業に戻った。
初めて贈る物だからこそ拘りたい。
やっぱり使って貰えるような物が一番いいかな。身に着ける物はどうだろう。
「あァ、名前。あいつの鍵を失くす癖、どうにかしてやれ」
「…鍵」
不死川さんはそう言うとヒラヒラ手を振り店を後にした。
天元さんは家の鍵をよく落とすらしく合鍵を作って不死川さんに持たせている。最近は私も持ち歩くようにと預かっていた。
…そうか、キーケース!
きっと自分では買わなそうだし大切に使ってくれるだろう。
不死川さん、然り気無くヒントをくれたのかな。面倒臭いと言いながらも世話を焼いてくれる彼にはお礼も兼ねて近いうちに甘い物でも差し入れしよう。
───────
昼まで晴れ渡っていた空もみるみるうちに分厚い雲に覆われて帰る頃にはポツポツと雨粒を落とし始めた。
街を行き交う人を見れば幸せそうに微笑んでいるカップルばかり。
明日になれば会えるとわかっていても無性に恋しくなってしまう。
いつだって私の心は、天元さんで溢れ返っている。
こんな日は早くお風呂に入って寝てしまおう。
次第に強まる雨から逃げるように家路を急いだ。
アパートに辿り着くとドアに寄りかかってスマホを弄る人影が目に飛び込んできた。
その人物は、会いたくてたまらなかった愛しい人。
会えた喜びを隠しきれず、掛けた声が上擦ってしまう。
「てっ…天元、さん?」
「おう、何だよ。ずぶ濡れじゃねぇか」
「雨が強くなってきて。…それより忘年会じゃなかったの?」
鍵を開けながら問いかけても返答はなかった。
打ち上げや飲み会といった類いが好きで欠かさず出席しているのにどうしたんだろう。
あ、もしかしてまた鍵を失くしたのかな。
ドアを開けて中へ入ると洗面所でタオルを手に取る。
「早く着替えろ。風邪引いちまう」
「うん」
「今日は名前と過ごすって決めたんだよ。付き合って初めてのクリスマスだからなぁ」
それで私を優先してくれたんだ。
今日ばかりは申し訳ない気持ちよりも嬉しさの方が上回った。
「ありがとう、凄く嬉しい」
素直に喜びを口にして微笑めば「ん、貸せ」そう短く答えタオルを奪って私の頭を拭いてくれる。
「俺の彼女は我儘一つ言わねぇ。端から見りゃあ出来た女だろうが俺はもっと甘えて欲しいもんだ」
「天元さん…」
「男ってのは、好きな女の前ではカッコつけてぇもんなんだよ」
徐にポケットから出した小さな箱を私に差し出す。
「これ…」
「俺の愛だ」
背後から包み込むように腕を回して箱から指輪を取り出すと薬指に嵌めてくれる。
「素敵な指輪…本当にありがとう」
「名前の指に良く似合うな。さすが俺様」
頬を寄せて抱きしめる彼に、もう一度「ありがとう」を伝えて。
「私も、天元さんに渡したい物があるの」
「俺は、名前自身が欲しいけどな」
「それは、それ。そのテーブルの上の箱、開けてみて」
明日渡すつもりで置きっぱなしにしてたプレゼントを指さした。
私が初めて選んだ贈り物…喜んでくれるかな。
「キーケースか!こいつは嬉しいねぇ」
「良かったぁ」
「これで鍵失くす事もねぇな。…おい、もう鍵が着いてんぞ」
「それ、この家の鍵。いつでも天元さんが来られるように着けておいたの。…駄目だったかな?」
覗き込むように下から彼を見つめれば滅多に見られない驚いた表情をしていた。
「嬉しいに決まってんだろ。ド派手なプレゼントだぜ」
「天元さん、メリークリスマス」
「あぁ、メリークリスマス」
蕩けるような口付けと、囁きを。
「名前、今夜は寝かさねぇから覚悟しとけよ」
- Merry Christmas -
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