慕情 | ナノ



不死川さんが上の方に話を通して下さり日々行動を共に出来るようになった。
任務の合間に鍛錬を行い、その日の課題も寝る間を削りやっとの思いで終わらせていた。
体力の限界をとうに超えていても目標があればこそ頑張れるというものだ。

今日も今日とて日課の素振りを行っていると不意に人の声が耳を掠める。


「不死川、いるかぁ?」


庭先に音もなく現れた人は、少し…いや、かなり派手な装飾品を身につけた男性だった。
不死川さんを敬称付けずに呼ぶという事は、この人も柱の一人に違いない。


「おはようございます」

「…お、お前が不死川の継子か?」

「…継子、とはよくわかりませんが、直々に御指導頂いてます」

「それを継子って言うんだよ」

「そうでしたか、勉強になります」


勢いよく頭を下げ顔を上げれば男性は目を丸くして呆気に取られていた。しかしその直後、今度は面白いやつだと豪快に笑い始める。不死川さんと違い感情表現が豊かな人という印象を受けた。


「不死川さんでしたら、直に戻られるかと」

「居ねぇのか。なら暫く待たせてもらうぜ」

「直ぐにお茶をお持ちしますね」


縁側に置いてあった手拭いで汗を拭きお茶の支度をするべくその場を後にした。

急いでお茶と卓上に置いてあったおはぎを添えてお出しすれば爽やかな笑顔で礼を言われる。
随分と背丈のあるこの御方は宇髄天元さんと言う名前らしく音の呼吸の使い手だと言う。


「名前は雷の使い手か!なら不死川より俺の継子になれよ。音の呼吸は雷からの派生、俺が派手に扱いてやる」

「は、はぁ…。先程、宇髄さんがいらっしゃった時に音も気配も感じなかったのは独自の技術なのですか?」

「あぁ、元々忍だったからな。その頃に身に付けたものだ」

「忍ですか。幼い頃から修行や鍛錬が日常だったのですね」

「そうだな、そりゃあ壮絶な特訓の日々だった」


宇髄さんのお話を聞いて努力は報われるんだ、改めてそう感じた。


「どうだ、俺の継子にならねぇか?」


宇髄さんは私の肩に手を置いて真剣な眼差しで問うてくる。
新米隊士にとってそのお申し出は、とても有難いお言葉だ。

でも、


「申し訳ございません。私はお慕いする不死川さん以外の方に鍛えて頂くつもりはないのです」

「…なるほどねぇ」

「宇髄さんのお言葉はとても嬉しかったです。私のような下っ端の隊士にお声を掛けて下さり本当にありがとうございます!」

「…だ、そうだぜ。不死川」

「えっ、不死川さん!?」


宇髄さんの見つめる先には腕を組んで佇む不死川さんの姿があった。
いつから聞いていたのだろう。
もしや、お慕いしているって部分も聞かれてしまっただろうか。


「こんな朝っぱらから何用だァ?」

「今日のド派手な柱合会議、忘れちゃあいねぇかの確認だよ」

「問題ねェ。用が済んだら帰りやがれ」

「名前、アイツ照れてんぞ」

「宇髄、テメェ!」


不死川さんの顔はよく見えなかったけれど、チラリと見えた耳は真っ赤に染まっていた。


「おい、名前!俺の許可なく何おはぎ食ってやがる」

「えっ、それは宇髄さんにお出しして…」

「言い訳すんなァ、素振り五百回追加。とっとと始めろォ」

「は、はい!」


初めて不死川さんの口から紡がれた私の名前。
そんな些細な事と笑われるだろうが一喜一憂してしまう。
これで暫くはどんな厳しい修行にも耐えられそうだ。


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