次々に舞い込む任務をこなし数日が経った。
衝撃的な出逢いを果たしたあの日以来、不死川さんを見掛ける事はなかったが任務で一緒になった先輩に訊ねてみれば大変偉い方だと知った。
鬼殺隊の中でも最高位とされる柱。その柱の一人が不死川さんだったのだ。
私のような階級の低い者が、おいそれと話しかけていい筈がない程に凄い存在なのだと先輩が、それはそれは熱く語っていた。
雲の上の存在である相手をお慕いしているなどと、うっかり口を滑らせた日には島流しの刑に処されてしまう恐れもあるので、ただただ相槌をうって遣り過ごした。
どんなに階級が違えど一度好意を抱いた人をそう簡単に諦めきれず、ならば高みを目指して任務に励もうと決意する。
───────
その日は朝から曇天で昼を過ぎた辺りから冷たい雨が降り始めた。
任務で訪れた町まで来ると雨足は強まり一時的な避難と休憩も兼ねて目についた甘味処へ入ることにした。
「あっ、」
中に入ると真っ先に目に飛び込んできたのは白銀の髪と背中の殺の文字。
───間違いない、不死川さんだ。
一気に高鳴る心音が、早く声を掛けろと囃し立てる。
「あァ?お前は、確か…」
「その節は、助けて頂きありがとうございました!」
「苗字、だったかァ?」
「はい!苗字名前です!」
「まァ、座れや」
この場合は相席してもいいものだろうか。
もしこんな所を他の隊士に見つかったりしたら、市中引き回しの刑に処されたりしないだろうか。
座る事を躊躇っていると不死川さんは勢いよく立ち上がり私の腕をむんずと掴んで引っ張り自身の隣に座らせた。
「とっ、隣だなんて恐れ多くて…」
「俺が座れっつってんだ。つべこべ言わず黙って座れェ」
「はい!失礼します!」
距離の近さに緊張が増して呼吸が浅くなる。
一旦気持ちを落ち着かせようと深く呼吸をしていると注文を聞きに来てくれたお店の人に不死川さんが「コイツにも同じ物を」と答えていた。
「あ、あの…」
「何だァ?」
「不死川さんに、お願いしたい事があるのですが宜しいでしょうか」
「お願いだァ?…まァ、言ってみろ」
「私を、鍛えてはくれませんか?」
「…はァ!?」
少しでも不死川さんに近づきたい。
その為の稽古を不死川さんがしてくれるなら、これ以上の幸福は無い。
不躾なお願いなのは重々承知しているが、こうしてまたお会い出来たのも偶然ではなく必然だったのではないかと思うのだ。
「面倒臭ェのは、お断りだ」
「そこをなんとか!私、こう見えて根性だけはあります!」
「しつけェなァ、そういう類は専門外だ。他の柱に頼めや」
「私は、不死川さんにお願いしたいのです」
甘味が到着した後も、押し問答を繰り広げておよそ数分。
一歩も引かない私を見て、それはそれは深い溜息を吐く。
此処で諦めたら次はない。
絶対に、何としてでも頷いてもらうんだ。
「生半可な気持ちだったら即、叩き潰すからなァ」
「ありがとうございます!宜しくお願いしますっ」
不死川さんは頭をわしゃわしゃ掻きながら本日何度目かの溜息を吐くと目の前に置かれたおはぎを食べ始めた。
食べている時の表情をじっと見つめていると、それに気付いた不死川さんがムスッとしたかと思えば、
「んぐっ!」
「早く食えやァ」
容赦なく私の口に、おはぎを詰め込んだ。
← 目次