鬼殺隊の隊士になって初の任務は小さな集落で毎夜女性や子供ばかりが神隠しにあっているので調査せよ、との事だった。
鎹鴉に案内されながら目的地へと向かっている途中、誰かに見られている気配を感じて立ち止まる。
「モウスグ日ガ暮レル、急ゲ、急ゲ!」
ゆっくり辺りを見渡しても田畑が広がっている見晴らしの良いこの場所には身を隠すような所もない。
思い過ごしだったかと目的地に向けて再び走り出した。
肌を突き刺すような視線は集落に着いても尚続いていた。
これは鬼によるものなのか、それとも別の生き物によるものなのか。
疑問は消化不良のまま、昨夜消えたとされる女性の足取りを探った。
すっかり陽も落ちて暗い闇に包まれる中、微かに何かが蠢く音を捉えた。
「こっちか」
音のする方へ走り出そうとした、その直後に背後から子供の泣く声が聞こえた。
ほんの少し前に確認した時には誰も居なかった筈なのに。
「えっ、子供?」
「痛いよー」
「暗くなったら外には出ないようにと、あれだけ注意したのに…」
痛い痛いと泣きじゃくる子供を放ってはおけずゆっくりと近づいて、どこが痛むのかを問うてみる。
すると子供は泣き止んだかと思えばニヤリと笑い、私に向けて爪を振りかざす。
「…っ!鬼だったのね」
「ハハッ!まんまと騙されてやがるぜ」
「騙すより、騙される方が救われるってね!」
鞘から素早く刀を抜くと鬼の頸を狙って振り下ろした。
「危ねぇ危ねぇ」
「躱された!?」
「お前程度の鬼狩りなんざ怖くも何ともねぇんだよ!」
鬼は人を喰らい力が増していく。そう育手のおじいちゃんが言っていたっけ。
この鬼は行方がわからない集落の人々を喰らって強くなったのだろうか。
何の罪も力も無い女子供ばかりを狙って糧にしているなんて、
「…許せないっ!」
「お前如きに何が出来るってんだ?」
全集中の呼吸を使うと、途端にその場の空気が変わり始めた。
「雷の呼吸、陸ノ型、電轟雷轟」
切り刻まれた鬼が消え行くのを見届けて、息を吐いた。
これで終わった、そう油断していた。
「女、見ぃつけた!」
「えっ」
しまった、まだ鬼は居たのか。
やはり私は詰めが甘いなぁ。
これじゃまた、おじいちゃんに怒られる。
諦めかけたその時だった。
「このアホがァ!気ィ抜いてんじゃねェ」
颯爽と現れて瞬く間に鬼の頸を切り落とした男性に目が釘付けになる。
舞うような身のこなしは月の光を浴び煌めきを放っていて、一瞬にして心を奪われた。
「お前、新入りかァ?」
「…は、はい!苗字名前、階級は癸です!」
「…此処はもういい。帰んなァ」
この人は、もしやとても階級が上なのでは…。
「あっ、あの…」
「あァ?」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「…不死川だ」
言うや否や闇の中へと姿を消した。
その背中に記された「殺」の文字が悲しんでいるように見えたのは錯覚だろうか。
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