柱ともなれば一般の隊士より危険を伴う任務が多い。鬼の中でも群を抜いて強力な十二鬼月の目撃情報があれば滅殺すべく速やかに現場へと向かう事は至極当然とされている。
最近は下弦の鬼の出現情報が相次いで報告されており、本日も目撃された付近で捜索を行っていた。
「先を越されたなぁ」
「…そのようですね」
「不死川か。派手にやってんじゃねぇの」
名前を聞いた途端、ほんの僅かに反応してしまった。
宇髄様が、それを見逃すはずもなく私の顔を覗き込んだ。
「名前、アイツに何かされたんじゃあねぇよな?」
「…匂いを嗅がれました」
あの日のやり取りを思い出していたら無意識に眉間が寄っていたようで「皺寄ってんぞ」と優しく指の腹で伸ばしていく。
「後で詳しく話してくれ」
言うや否や戦場へと向かって行った。
聞かれて困るような事はないけれど詳細を話すまでの事もない。
何故ならば風柱様とは、ほんの数分しか接していないのだから。
「何だよアイツ等、桁違いに強いじゃねぇか!こんなの聞いてねぇぞ!」
どこからともなく背後に出現した鬼は戦場を眺めながら小刻みに震えている。その瞳の片方に下弦、もう片方には弐と書かれていた。
この鬼が下弦…。だとすると今戦っている向こうの鬼は十二鬼月ではなかったのか。
それよりも、こんなにも近くに鬼殺隊の隊士がいるというのに此方には目もくれず遠くに気を取られているなんて…小馬鹿にしているのか、この鬼は。
「余所見してると、危ないよ」
瞬時に背後へ回り込み鞘から刀を抜くと頸を目掛けて振り下ろす。
「ガハッ!…だ、誰だ!何処にいる!」
「…え?」
斬りかかるすんでのところで鬼が前屈みになったので傷は予想以上に浅かったようだ。
目前の鬼は傷ついた頸に手をあてがい周囲を警戒していた。手を伸ばせば容易く触れられる距離にいると言うのに私の存在を無視するかの如く何処にいるんだと喚き散らしている。
これではまるで透明人間扱いではないか。
ん、待て待て。
まさか、この鬼には私の姿が見えていないのか?
何で…今までそんな事なかったのに。
いや、今は鬼に集中しよう。
相手に認識されていないなら此方に分がある。
考えるのは後回し、この機を逃す手はない。
今度こそ確実に仕留めるんだ、と柄を持つ手に力が入る。
「名前、この俺が派手に頸を跳ねてやる。後は任せろ!」
「宇髄様!」
「いい一撃だったが気配を悟られたなァ」
「風柱様」
二人は手早く下弦の鬼を追い詰めていった。
「さて、と。お前に聞きてぇ事がある」
「言わない言わない何も言わない!!!」
「鬼舞辻について洗いざらい吐けやァ」
「知らない知らない何も…言えないんだァァァ!!!」
「なら…用はねェ」
言葉と同時に頸を斬られ、ゴトリと落ちた頭はゆっくりと消えていく。
その光景をただ黙って見つめていると、唐突に激しい頭痛が襲ってきた。
「…っ!」
「おい、名前。どうした?」
この痛みに覚えがある。
あの花札の柄のような耳飾りを目にした時と同じ感覚。
頭を抱えその場に崩れ落ちると、そのまま意識が遠のいていった。
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