目を覚ますと外が明るいからか普段より天井の色合いが幾分くっきりと見える。
いつの間に眠っていたんだろうかと、まだ稼働しない頭で考えていれば突然視界に影が落ちて人の顔が映し出された。
「ひいっ」
「目ェ覚めたかァ?」
「か、風柱様が何故此処に…」
「覚えてねェのか」
「はい、全く記憶に御座いません」
風柱様からの問いかけに即答すれば舌打ちする音が空間に響く。
もしや、就寝の隙をついて何か企てるおつもりだったのか。布団の中を覗き衣服を確認すれば何故か隊服を身にまとっている。
「話の最中に、気ィ失いやがって。仕方ねェから運んでやったんだよ」
「ご迷惑をおかけして大変申し訳御座いません」
慌てて身体を起こし布団の上で正座をすると深々と頭を下げる。心の中でとはいえ、あらぬ疑いをかけてしまった事も謝罪させて下さい。
「名前」
「はいっ」
名を呼ばれ顔を上げると風柱様は険しい顔つきで此方を見つめていた。
そういえば私は話の最中に突然倒れたと風柱様は仰っていた。
夢じゃなければ私の身体からは藤の花の香りがするという結果が出たと聞いた辺りまでは薄らと記憶にある。
「お前の血には何やら特殊な効果があるらしい」
「特殊、ですか」
「俺の血は稀血って呼ばれる希少な血。その中でも更に希少なモンらしく、鬼がこの血の匂いを嗅げば酩酊しちまう」
「稀血は鬼の好物と噂に聞きましたが」
「一般人の何十倍もの栄養があんだよ、稀血にはなァ」
風柱様は鬼の欲しがる稀血、私は藤の花の香りを漂わせ鬼を遠ざける特殊な血。どちらも同じ希少な血であるはずなのに蓋を開ければ全く異なるもの。
私は鬼殺隊の隊士には向いていない。
そう頭では理解していても諦めきれないのは鬼への憎しみだけではなく思い出してしまったからだろう。
私が鬼だった頃の前世の記憶を。
「風柱様」
「何だァ?」
「目の前で大切な人達の命が奪われていくのを黙って見ていられず、鬼殺隊に骨を埋める覚悟で入隊しました。今もその気持ちに変わりはありません。しかしながら此処に居てはお役に立てないどころか足を引っ張りかねません」
「…宇髄の元を離れんのか?」
「はい、これ以上天元様のお手を煩わせるような真似だけはしたくないのです」
私が天元様のお傍に居る限り鬼は姿を現さない。
天元様の負担になる位ならば以前のように一人で任務をこなすべきだろう。
「俺が面倒見てやるよ。お前の匂いも俺の血の匂いで相殺出来んだろ」
風柱様の掌が私の頬に触れようとした瞬間、暖かな風が吹く。
「俺の留守中にそんな重要な事、勝手に決めてもらっちゃあ困るぜ」
幾日か振りに聞いたお声に私の心は掻き乱された。
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