男性からの問いかけに驚きつつも頷けば満足気に笑んで、どうりで派手なわけだと一人で納得している。
見るからに個性が強い人に派手だと言われても正直な所、複雑な気持ちである。
「そういやぁ、名前聞いてなかったな」
「そうでしたね」
「俺は宇髄天元。直ぐそこのキメツ学園で美術を担当してるド派手な教師だ」
「教師なんですか」
この人には何度も驚かされたけれど先生だったとは。美術の先生って聞けば、そう言われたらそうなのかも…とは思うけど。
「因みに、不死川も教師だぜ」
「えっ」
あの人が先生…衝撃的すぎる。
だって屋内で七輪使って魚を焼く人だよ?教わっている生徒がとても心配だ。
…いや、案外学園では常識人で生徒には優しく接しているのかも。
脳内はショート寸前まで追い込まれたのでリセットしなきゃと頭を横に振り、慌てて話題を元に戻した。
「私の名前は、苗字名前です」
「宜しくな、名前」
「よ、宜しくお願いします」
宇髄さんの距離感に戸惑うけど、なんだろう…嫌な気はしない。不死川さんと足して二で割ると丁度良いのに、なんて思ってみたり。
お互いの自己紹介も終えたところでドアを開けて中へと案内し冷蔵庫の前まで荷物を運んでもらう。
「助かりました。ありがとうございます」
「いいって事よ」
「宇髄さん、そこの窓から桜が見えますよ」
「名前、逸るな。花見は役者が揃ってからだ」
「役者、ですか?」
「おう、仲間に招集かけておいたぜ」
派手に花見すんぞ、と拳を突き上げ嬉しそうに燥ぐ彼を最早止められはしない。
こうなったら私もとことん楽しもうじゃないか。
袖すりあうも他生の縁ってやつだ。
「…来たみたいだな」
初めて出会った時も思ったんだけど、宇髄さんって途轍もない聴覚の持ち主なのかな。もしくはエスパーかも。
「宇髄、来たぞ!」
「急で悪かったなぁ、煉獄」
「何のこれしき!頼まれた酒と、これは手土産だ!」
玄関先でやり取りをしている宇隨さんの背後から顔を覗かせていたら視線に気付いたのか、じっと見つめられる。
「部屋の主の名前だ。名前、コイツは同じ職場の煉獄。生真面目な奴だが宜しく頼むな」
「名前さん、本日はお招き感謝する!」
「よ、ようこそ…いらっしゃいませ」
あまりの大きな声に一瞬たじろぐも何とか挨拶を返せば煉獄さんの口元が少しゆるむ。
「どうぞ上がってください」
「お邪魔します!」
リビングに入ってソファーで寛いで下さいと促せば、いい笑顔で御礼を言われる。宇髄さんの言う通りとても真面目で律儀な人なのだろう。
「お、不死川も来たか」
「宇髄、テメェ何してやがる」
「名前と花見するんだよ。宴は大勢の方がド派手で楽しいだろ」
玄関先で騒がしい二人を心配して行ってみれば不死川さんはガシガシと頭を掻きながら大きな溜息を一つ吐いていた。
「俺が言いてェのは、軽率な行動すんなって事だ」
至極真っ当な事を言い放った彼に面食らっていると矛先は此方へと変わる。
「お前もお前だ。身元もハッキリしねェ怪しい男を容易く部屋に入れてんじゃねェ」
「…はい、ごもっともです」
こめかみに青筋作って叱責する不死川さんに返す言葉が見つからなかった。
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