清楚で上品、そして女の私から見ても綺麗で女性らしいその人は不死川さんと親しげに会話をし始める。
傍から見ても、様になる二人。
胡蝶って姓か名か知らないけれど…氏名まで麗しいだなんて。
空気のような存在になった自分が惨めに思えてきて、胸を抉られたような痛みを必死に堪えその場を後にした。
声も掛けずに帰ってしまった件については後日きちんと謝ろう。
一秒でも早くあの場から遠ざかりたい。
そう思うあまり段々と急ぎ足になっていく。
「ん?名前じゃねぇの」
聞き覚えのある声に歩みを止め振り返ってみれば丁度脇道から出てきた宇髄さんと視線が交わる。
「あ、こんばんは」
「随分急いでるみてぇだが用事でもあんのか?」
「いえ、そういう訳では…ない、です」
先程まで不死川さんと一緒だったと話してもいいものかと言い淀んでしまった。
「…まぁいい。暇なら名前も来いよ」
「えっ、何処に行くんですか?」
「来ればわかる」
ニッと笑い「行くぞ」と背中を押される。
まだ了承してないのに、と思いながらも断らないのは一人で居たくないからだ。
少し歩いた先に一件の居酒屋が見えてどこか見覚えのある男性が此方に向けて軽く手を挙げた。
「宇髄…と、君は名前さん!」
「あ、煉獄さん。こんばんは」
「そこで見掛けたんで連れてきたぜ」
入り口で出会った煉獄さんと簡単な挨拶を済ませて中へと入れば、どんどん奥へ向かって行く。
「よぉ、待たせたなぁ」
「俺も今し方着いたところだ」
「冨岡一人か。他の奴等はどうした?」
「皆、私用があると聞いている」
「んだよ、今日はゲストもいるってのに」
二人の背後で会話を聞いていた私の肩をがっちりと掴んだかと思えば席へと促す。
「名前、こいつは同僚の冨岡だ」
「初めまして」
「…どうも」
「名前さん、腹は空いてないか?」
「あ、食べてきたので大丈夫です」
「そうか、ならば飲み物を頼もう!」
仕事帰りに同僚と飲みに行く程、仲のいい職場かぁ、羨ましい。見た感じ年代も近そうだし話が合うからなのかな。
「んで、仕事で何かやらかしたのか?」
「…え?」
「気落ちしてるように見えたからよ」
テーブルに肘をつき、問うてくる宇髄さんの方に顔を向けた。
「別に、普段と変わりないですよ」
「宇髄は随分名前さんと親しいのだな」
「それを言うなら、俺より不死川じゃねぇの?」
不意に出てきた不死川さんの名前に心臓が飛び跳ねる。
同僚なんだからいつ名前が出ても不思議じゃないけど。
今は、あまり聞きたくなかった。
「冨岡さん、これ食べますか?」
「あぁ、すまない」
「煉獄さんも食べて下さい」
「頂こう!」
「…なるほどねぇ」
隣に座る宇髄さんからの突き刺さるような視線に気付いていない振りを装って生ビールをグイッと煽った。
明日は、きっと二日酔いだろう。
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