家に着いて玄関のドアを跨ぐと目の前にはどこか見覚えのある景色が広がっていた。


「あ、れ?」

「なんだ、邸じゃねェか」

「そっか、実弥の邸に戻ってきたんだ」


前回のように瞬き一つで時空移動ではなく玄関が繋がっていたのか。今回は猫型ロボットが登場する某漫画の道具にも似たような移動方法だったなぁ。最もその道具で次元を移動したりは出来なかったけど。


「おい、名前」

「うん?」

「不測の事態だ」


実弥はそう呟いて邸内へと足を進める。
一体何が起きているのかと首を傾げつつも実弥の後を追いかけていくと縁側には難しい顔をしながら物思いにふける見知った人の姿があった。


「あ、天元様!良かったぁ、戻ってたんだね」

「ちっとも良かねぇだろ!」

「まぁまぁ落ち着いて。それよりも何で実弥の邸にいるの?」


この時代から向こうへ戻った時、此処に滞在中の時間はカウントされていなかった。ならば此方に戻ってきた時も同様に時は止まっているものだと思っていたのだけれど。


「外が明るい」


向こうの世界にいた時間はきちんと経過している。
どうなっているんだ、この時間軸。


「お前らが戻ってくるまでの間、煉獄と冨岡に聞いてみたんだがなぁ」

「ついにっ!さねぎゆをこの目で拝める…」
「あァ!?」

「実弥食い気味に怒らないで!そして睨まないで!ちょっと欲望が口からこぼれちゃっただけ!」


実弥と義勇さんが縁側でイチャイチャしながらのんびり過ごす場面とか見てみたかったんだもの。


「宇髄、名前に構わず話を続けてくれや」

「実弥、私を見捨てないで!」

「大人しくしねェとその口塞ぐからなァ」


不敵な笑みを浮かべる実弥に危険を察知したので両手で口元を隠し首を縦に振ってみせた。


「二人の邸にも現れたんだとよ。薄っぺらいド派手な衣服を身にまとった女だったそうだ」

「名前と同じ世界の女かァ?」

「あぁ、恐らくな。煉獄は直接は見てないそうだ。冨岡の方は有無を言わさず追い出したらしいぜ」


この時代に少なくとも四人訪れているのか。
私以外の女性はその後どうしているのだろう。
元の世界へ戻れたのか、それともまだこの時代に残っているのか。


「女の消息はわかってんのか?」

「さぁな。派手な身なりでその辺彷徨いてりゃあ嫌でも噂になってるはずだが、そんな話も耳に入ってきやしねぇ。もう此処には居ねぇと考えんのが妥当だろうな」


全く面識もない人達だけど平穏な世界から連れて来られたのだとしたら無事であって欲しい。
私はたまたま運が良かっただけ。
これが実弥の邸ではなく違う人の邸だったら…。


「名前、お前が気にする必要はねェ」

「そうなんだけど他人事とは思えなくて」

「誰の差し金かは知らねぇが、今頃は戻ってのんびり暮らしてんだろうよ」

「そう、だよね」


彼女たちの行方を知る術がない以上、いくら考えた所でどうしようもないから。


「名前が俺の元へ来たのは出会う運命だったんだろ」


背中から包み込むように抱きしめる実弥の腕に触れながら黙って頷いた。


「おっと、早速来たみてぇだな」


天元様の言葉の意味がわからずに周辺を見渡していると目の前にはいつの間に訪れたのか、時透無一郎くんが佇んでいた。


「ねぇ、僕に奇襲かけてきたのは君だよね?」


刀の切っ先を此方に向けてそう言い放つ無一郎くんから殺気を感じた。



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