脳内に響く声は、一体誰のものなのか。


『宇髄天元、強制的に帰還。完了しました』


え、帰還?
天元様は元の世界に帰還したの?
頭の中から聞こえた声の主に問いかけてみても私の言葉に返答は無い。


「あの野郎、何処まで行きやがった」

「実弥、天元様が帰還したって」

「あァ!?帰還だァ?」

「頭の中で誰かの声が聞こえてきて、そう言ってた」


さっきの言葉が事実なら帰還とは元の世界に帰ったって事になる。
強制的にって部分が引っかかるけど。

この世界の人では無い第三者が、時空の行き来を操作しているのだとすれば…。


「ねぇ、実弥」

「…気付いたかァ?」

「うん、同じ事を考えてたんだね」

「あァ、何処からか俺らを監視して楽しんでやがる」

「違う世界から私達の行動を見てるんだ」


まさかとは思うけど。
その人物が住まう世界で、これはゲームになっているのか。

なんて、それはないよね。
…とも言い切れないのは可能性がゼロではないし、この世界でこんな現象が起きている対象が私一人ではなく複数人いると思われるから。
天元様や邸に現れた女性がその後どうなったのか気になるけど、今は自分達の事で手一杯だ。


「実弥、うちに帰ろう」

「あァ」


車に戻って運転席に乗り込むと、実弥は助手席側の扉を開けて座る。
ここまで来る時は天元様とどっちが隣に座るか揉めに揉めた末、二人で後部座席に座る事で落ち着いたんだったっけ。
突如天元様が居なくなった事を未だ受け入れられずにいるけれど、いつまでもくよくよしていられない。


「実弥、天元様が居なくなって寂しい?」

「邪魔者が消えて清々したなァ」

「そっか。…ちゃんと元の世界に戻れているといいなぁ」

「お前は、寂しそうだなァ」

「そりゃあ少しは寂しいけど。でも私には実弥がいるからね」


信号で停止したタイミングで実弥の方を向けば視線に気付いたのか此方に顔を向けて手を伸ばす。


「名前を一人置いて消えたりしねェ」

「…うん」


頬に優しく触れる手の温もりが心の中に芽生えた不安を取り除いてくれる。
彼と出逢い心に触れて胸は高鳴り、いつしか私の心は実弥で埋め尽くされていた。
生まれ育った次元が違うとか私の信条とか誰かが時空を操作してるとか、そんなのどうでもいい。

私は実弥が好き。

これが揺るぎない真実。
実弥と一緒に居られるなら、それ以外の事は全てどうだっていいんだ。


「…そっか、そうだよね」

「何一人で納得してんだァ?」

「眺めるだけじゃ満足出来なくなったって話だよ」

「…何だそりゃ」


実弥が歩む時代は此処じゃない。
ならば、共に行ってやろうじゃないの。


鬼の蔓延る時代へ。



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