免許はあるが車は無い。
こんな時レンタカーって本当に便利だよね。


「見慣れねぇ建物ばかりだなぁ、この時代は」

「建物が多過ぎて広さを確保出来ないから高層建築が増えたんだろうね」

「倒れてきたりしねぇよな?」

「余程大きな地震でもない限りは大丈夫…じゃないかな」


流石に二人を連れて歩き回ると目立ってしまう。けれど此方の世界に来た彼らをもてなすと決めたからには綺麗な夜景を見てもらいたい。
車に乗る直前まで刀を持って行くと言って聞かない実弥を説得するのも大変だったけど誰かに見られたりしたら大騒ぎになってしまうからね。


「実弥、まだ怒ってるの?」

「…別に怒っちゃいねェ」

「拗ねてる実弥も可愛いね!」

「名前、こいつの事は放っておけよ」

「気安く名前を呼び捨てにしてんじゃねェぞ」


うん、通常の実弥に戻ってるし一安心だ。
予定通り海の見える辺りに行って夜景を見に行こう。幸い夜だから道も空いている。

海が見渡せる場所に到着すると車を停めて外に出れば季節外れの海に人の姿は見当たらない。
あまり長居をすると寒くて風邪引いちゃいそうだな。


「実弥、天元様、着いたよ」

「ほぉ、随分と派手に煌めいてんじゃねぇか」

「あれは観覧車って言う乗り物だね」

「あれが乗り物なのか?」

「うんうん。それで、こっちは海だよ」


すると突然、実弥が羽織を脱ぎ始めたかと思ったらその羽織を私に掛けてくれた。

何これ何このシチュエーション。しかもこういう立ち振る舞いをサラッとしてくれそうな天元様じゃなく実弥がしてくれるなんて!ギャップ萌えだよ実弥のファンに全力で殴られそうだよ。
まるで乙女ゲームのヒロインにでもなったかのような気分になってしまう。

…ただ欲を言えば、羽織の背中に入っている『殺』の文字さえ無ければ完璧だったのにっ!
またそんな事言ったら実弥のファンに命を狙われちゃうから心の中に留めておきます。


「嬉しいけど、これだと実弥が寒いでしょ?」

「俺は鍛えてっから大丈夫だ」

「駄目だよ」

「なら、こうすりゃあいいだろ」


私の背後に立つと羽織ごと包み込むように抱きしめた。
これだと私だけが温かい気がするけど、これ以上は言っても引いてくれないだろうな。


「おいおい、ちゃっかり名前に抱きつきやがって。見せつけてんじゃねぇぞ」

「あァ?俺が名前に何をしようとテメェには関係のねェ話だろォ」

「ねぇ、ちょっと夜景を…」

「不死川、お前が独占欲強い男だったとはねぇ。地味な野郎だぜ」

「テメェのように脳内には色欲しかねェ男より遥かにマシだがなァ」

「ちょっと二人とも!」

「名前、お前は器の小せぇ地味な男より俺のような派手な色男の方がいいだろ?」

「馬鹿言うんじゃねェ。女に見境のねェ万年発情男より硬派な男がいいに決まってんだよ」


あー、これもう止めても無駄なやつだ。
早々に匙を投げ盛大に溜息を吐くと二人の言い争いをBGMに夜景を眺めていた。


「聞いてんのか、名前」

「名前、お前はどっちを選ぶんだァ?」

「大体お前が、ハッキリしねぇからこんなに揉めてんだろ」

「俺と宇髄のどっちだァ?さっさと俺って言えや」

「え、ちょ…」


矛先が私に向けられ責め立てられる私。
何も悪くないのに何でこうなるの。
しかも実弥、選択肢があるようで自分一択じゃないか。
そして天元様に至っては嫁が居るのにまだ欲しがるとか強欲にも程があるでしょ。

振り返って実弥を見上げれば不服そうな顔をしていて、そんな表情にもときめいてしまう。


「拗ねた実弥は、やっぱり可愛いね!」

「…お前なァ」


呆れながらもギュッと抱きしめてくれる彼の背中にそっと手を回せば優しい手つきで髪を撫でる。


「…おい、宇髄が消えたぜ」

「えっ?」


慌てて実弥から離れ辺りを見回すも天元様の姿は何処にも見当たらなかった。



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