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今は大正何年で何月とかわからないが鬼殺隊の組織が存在する時点でまだ鬼舞辻無惨との戦いは終わっていない事だけは確かだ。
炭治郎はもう動き始めているんだろうか。
義勇と出会っているなら二人が並ぶ姿をこの目で…。
おっと、真面目な話でさえ私の脳にかかれば全て腐へと変換されてしまう。脳内全域に汚染が広がっているから、そこはどうか許して頂きたい。
「名前」
「はっ、はい」
「此処追い出されたら、行く宛なんざねェんだろ」
「え、私…捨てられる、の?」
「女給として置いてやる」
女給…あっ、家政婦みたいなものか。
名目は何でもいい、此処に置いてもらえるなら。
「実弥、ありがとう」
「しっかり働いてもらうからなァ」
「頑張ります!」
近場に畳んであった白い布を手に取り頭に巻いて気合いを入れれば「おい、それ褌な」と突っ込まれる。
通りで長いと思った。天元様の頭に巻かれてる布かと思ったわ。
恥ずかしくて穴があったら入りたかったけど実弥が笑ってくれたから結果オーライって事で。
「雑巾がけするね」
「あァ」
電気やガス、水道や家電製品が当然のように存在する平和な世界で産まれ育ったものだから、この広い邸内の雑巾がけともなると非常に時間がかかるわけで。プラス日頃から積極的に身体を動かしたりしないインドア派な私は体力が無さすぎる。
「ちょ…休憩しよ」
まだ廊下を拭き終えただけでギブアップだ。
少し風に当たろうと縁側に向かえば陽に当たり気持ち良さそうにうたた寝をする実弥が居た。
これまた超絶レアな姿。
「実弥、風邪引くよ」
「…病に罹った試しはねェ」
隣に腰を下ろして空を仰げば雲ひとつない快晴。
鳥の囀りに耳を傾け目を閉じれば、元の世界へと戻ったのかと思える程の平穏。
「実弥達は…この世に平和が訪れて、皆が笑顔で暮らせるように戦っているんだね」
「俺の性根は、そんな綺麗なモンじゃねェけどなァ」
「私は、侠気がある実弥、大好きだよ」
「…そうかィ」
私の腿に頭を乗せて腕を組みながら目を閉じる。
ずっと一人で沢山の悲しみを背負って孤独と向き合い鬼を憎み戦っているのか。
実弥の生い立ちを知るからこそ胸が苦しくて張り裂けそうだ。
どうか今だけは、全ての感情を忘れて休んで欲しい。
髪を梳くように優しく頭を撫でれば眉間に出来ていた皺が薄くなっていく。
「名前」
「ん?」
「お前、酔狂者だな」
「…それ、褒めてないよね」
漫画では知り得ない実弥の一面が垣間見える度に心が乱される。
決して出逢い触れ合う事など叶わないと思っていた。未だにこれは夢なんじゃないかって疑ってしまう程、頭の中はふわふわしている。
でも、これは現実。
幻想なんかじゃない、存在する世界なんだ。
今だってこうして、実弥に触れて感じる温もりは本物で…。
「おい」
「…あっ」
「俺の胸に気安く触れてんじゃねェぞ」
つい欲望の赴くがままにあちこち撫で回していると腕を掴まれて押し倒され、真上から見下ろす実弥の瞳から逃れられない。
このアングルから見る彼は、非常に刺激が強すぎる。
「…名前」
「ひゃっ」
耳に息を吹きかけるように名を紡がれて過剰に反応すれば満足そうに笑んだ後、そっと私の背に手を回し上体を起こした。
「今はまだ、何もしやしねェよ」
軽く頭を撫でて、この場を後にした。
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