この世界に来てから刀を向けられたのは二回目。人生で二度も生死に関わる出来事を味わうなんて思いもしなかったよ。
記念すべき初めてのお相手は実弥だったけれど、ここまで明確に殺意をあらわにしてはいなかった。
無一郎くんをこれ程まで追い詰めるとは…一体全体どこの誰なんだ、こんないたいけな少年を襲った人物は。


「お前ん所に現れたのは、名前じゃねぇ。よく顔を見てみろ」


冷静に話す天元様に一瞬視線を向け再び私を凝視する無一郎くんが可愛くて徐々に頬がゆるんでいく。
ダメだ、耐えるんだ。今、妙な行動をしたら刀で斬られてしまう。
いくら自身に言い聞かせても無一郎くんの眼差しが私の心を駆り立てる。


「ニヤついてて気持ち悪い」

「もっと優しい言葉でお願いしま…、ちょっと痛い痛いよ無一郎くん!刀の先がちょっぴり刺さってるぅぅ!」

「何故、僕の名前を知ってるの?言わないともっと深く刺すよ」

「時透、刀をおさめろ。名前はずっと此処にいた」


背後から抱きしめていた実弥が私の身体を後方に引いてくれたお陰で刀の切っ先から逃れられた。
ありがとう実弥。


出来ればもう少し早く助けて欲しかった!



「あの、無一郎くん」

「…何?」

「襲われたって言ってたけど、女性だったの?」


いくらまだ少年とはいえ無一郎くんの剣の腕は柱の中でもトップクラス。そんな彼を狙う命知らずな女性が果たしているのだろうか。


「服を…」

「えっ」


少し顔を赤らめながら呟く無一郎くんの姿を見て察してしまった。

狙われたのは命ではなく貞操かっ!



「あぁ、俺ん所に来た女と同類だな」

「無一郎くん!その話、もっと詳しく!」

「名前、お前が口を挟むとややこしくなっから黙ってろォ」

「ちょ、実弥お腹締まってる!苦しくて口から何か産まれそうです!」


容赦なくお腹を締め付ける腕を両手で何度か叩いて苦しいアピールをすれば少し力が弱まった。危うく脇腹が粉砕骨折するところだった。何の修業もしていない一般人の身体は驚く程に脆いって事を念頭に置いて欲しいものだ。


「君と着てる物が似たような生地だった」

「服装が似てたから見間違えたんだね」


この時代ではニットを着用している人って見掛けないもんね。だとすれば無一郎くんの元に現れた人も私同様、異世界からの来訪者で間違いなさそうだ。
頭の中で状況を整理していると突然無一郎くんが近づいてきて大きな瞳で私をじっと見つめる。

あぁ、無一郎くんの肌きめ細かくて綺麗だなぁ。
スベスベしてそう触りたいなぁ。


「触ってもいいけど」

「え、何、私の心の声が聞こえるの!?」

「派手にはっきり言ってたぜ」

「名前って馬鹿なんだね」

「懲りねェ奴だなァ、名前」

「ちょ、いたたた痛いってば実弥!鼻もげちゃう、つままないでっ!」


この後、呆れ顔だった天元様から無一郎くんに今知る限りの状況説明がされたのだった。



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