予想外。

初めての柱合会議は散々だった。

実弥と同じ柱になった私を祝ってくれるという予想に反して睨みつけるし怒鳴り散らすし暴れるし挙句の果てに馬鹿だ愚図だと罵声まで浴びせられた。
何もそこまで言わなくてもいいじゃないか。
自分の事のように喜んでくれると思っていただけに噛みつかんばかりに怒りをあらわにする実弥を見て意気消沈した。


「名前、気にすんな」

「ねぇ天元さん。私が悪いの?」

「誰も悪かねぇさ。あいつはまだ、ガキなんだよ」


会議が終わると鬼の形相で此方に向かって歩いてくる実弥から身を守ってくれたのは隣にいた天元さんだった。
何度か任務で同行した事はあったものの言葉を交わした記憶はない。天元さん特有の物腰の柔らかさが彼との距離を感じさせないのだろう。


「苗字、此処は引き受ける。早く立ち去れ」

「伊黒さん、恩に着ます」

「名前、テメェ待ちやがれェェ!」


今にも斬りかかってきそうな実弥を力ずくで押さえ込んで、行けと目で促す伊黒さんに一礼し足早に本部を去った。
そして何故か後をついてくる天元さんは必死に笑いを堪えている。
他人事だからと面白がるなんて悪趣味だ。話しやすくて仲良くなれそうだと思っていたのに。


「この状況を楽しんでるでしょ」

「そりゃあ色恋沙汰は、いや…んな訳ねぇだろ。それよりも飯だ飯!」


色恋沙汰ってなにさ。それ以前の問題だったんだよ。
異性として見られていないから諦めたってのに無遠慮に踏み込んできて心の傷を抉るのはやめて欲しい。


「ご馳走してくれるんだよね?」

「おう、派手に任せときな!」


とびっきり高価な物を注文してやる。
それで楽しんだ件は相殺ってことにしよう。
天元さんの後に続いて店に入れば、先程の会議に参加していた煉獄さんが視界に映った。


「もしかして、待ち合わせしてたの?」

「こっちに来た時は煉獄や伊黒と此処に立ち寄るんだよ」

「そうなんだ」

「宇髄、苗字も一緒だったのか!」

「よぉ、煉獄。俺らも、こいつと同じ物を」


煉獄さんの座っている席へと進み向かい合わせに腰を下ろす。


「不死川は一緒ではないのか?」

「実弥なら、伊黒さんが今頃宥めてくれているかと」

「そうか!」


穏やかな笑みを見せ短く答えた煉獄さんにつられて微笑むと一瞬大きく目を見開いて驚いたかと思えば露骨に目を逸らし顔を背ける。


「煉獄さん?」

「…いや、気にするな」

「あー俺、察したわ。派手に悟ったわ。これを危惧して不死川は手元に置いてたんだろ」

「え、天元さん?」

「名前、お前もう笑うな。後々面倒事に巻き込まれんのは勘弁だぜ」

「…はぁ?天元さん、私の笑顔が凶器とでも言いたいの?自分が色男だからって私の顔面にケチつけるのは如何なものかしら」


バンッと机を叩き立ち上がって捲し立てれば天元さんは呆然としていて、はっと我に返る。
静まり返った店内を見渡せば煉獄さんを始め居合わせた人々は此方を見て呆気に取られていた。
注目を集める程に大声だったのかと羞恥に駆られて俯き椅子に座れば頭の上から盛大な笑い声が聞こえてくる。


「さすが不死川の面倒見てただけあって気丈夫じゃねぇの。俺も派手にお前の事、気に入ったわ」


天元さん…これ以上厄介事を作らないでよ。

今度は私が愕然とする番だった。



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