ルピナスの微笑み

自分の中に芽生え始めた感情に少なからず不安と戸惑いを感じていた。
先生はいつだって真っ直ぐに想いを伝えてくれて困っている時には何の躊躇もなく手を差し伸べ優しく包み込んでくれる。その温もりに触れる度、心に根付くしがらみは少しずつ解きほぐされていく。

何の色も持たない私が先生と愛を育んでいったら一体どんな色になるのだろう。
恋愛偏差値がゼロの私でも呆れずにずっと傍にいてくれるだろうか。
永遠なんてないと思う自分と相手が先生ならば不確かな未来を打ち破ってくれるかもと期待する自分。
信じてる、とは言い切れず前へ踏み出せないのは失う怖さを経験しているから。
私は自分が想像しているよりもずっとずっと臆病で弱い人間だ。


「名前、ちょっといいか」

「うん」

「お前の瞳には俺がどんな風に映ってんだ?」

「先生は、先生でしょ」

「そうじゃねぇ。いや、そうだけどそうじゃねぇよ」


ソファーに寝そべっていた身体を起こし姿勢を正す先生の顔を見上げてみれば至極真面目な顔をしていた。
唐突な質問に対して思いつくままに答えを告げたけれど言った後でその言葉の意味に気付く。

先生は一人の人間としてではなく異性として自分をどう見ているかを聞きたかったのか、と。

これは決して有耶無耶にしていい話ではないのだと直ぐに察して私もきちんと座り直す。


「聞き方を派手に間違えたわ」

「先生、ごめんね」

「おいおい待て待て。それは何に対しての謝罪だよ。あれか、俺、ひょっとして拒まれた!?ド派手にフラれたのか!?」

「いや、ちょっと落ち着いて」

「無理だ無理!フラれる事に対する耐性が全く無ぇんだよ」


確かに先生は黙っていても女性が頬を染める程に整った顔立ちをしてるから、さぞかしおモテになるだろう。きっと今まで告白を断られた経験がないんだろうな。
これで内面が性悪だったなら絶対に惹かれたりしないのに。
悔しいけれど先生が好き。
彼との未来を想像した瞬間からこれが恋なんだと自覚してしまったから。


「先生」

「ちょっと待て!まだ…まだ言うなよ」

「私、別に」

「待てって!こういう事は心の準備ってのが」

「あーもう、煩い!私だって先生にもらってばかりだから、ちゃんと応えていこうと思ってるのに何で今日に限ってそんなにネガティブなのよ」


頭を抱えて喚いている先生に向けて放った渾身の一撃で漸く静寂を取り戻した。
ひねくれ者の私には、これが精一杯の回答。
それでも充分過ぎる位、先生には届いているはずだ。


「名前」

「…何でしょうか」

「それはつまり、俺を好きって解釈でいいんだな?」

「そうなのかな」

「そうか!名前は俺を好きなのか!」

「そうみたいね」

「俺の事、好きなんだろ?」

「何度もしつこい!そうよ、好き!異性として宇髄天元が好きだって言ってるの!」


先生に上手く乗せられる形ではあったけれど。
口に出した言葉は思いの外自身の心を晴れやかにした。


「名前の口から、やっと聞けたぜ」

「半ば強引に、だけどね」


抱きしめる先生の胸に寄り添えば包み込む腕に力がこもった。


「ぶっちゃけ俺、お前にべた惚れなんだわ」



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