ろぐ | ナノ




とうとう一週間前に出た美術の課題のしめきりが明日になった。
ちなみに言うと明日とは金曜日のことで、今は木曜日の放課後の午後6時である。
なんでこんなに遅くまで残っていて課題やらなかったのかとか、むしろ早く課題出たその日にしろよとかの疑問は浮かんでこない。
こんなに遅くまで残っていた理由は課題をやってたからじゃない。
まあ、課題のためではある。

「…よし、行くか」

覚悟を決めて、今部活が終わったであろうテニス部室へと向かった。




「…で、俺のとこに来たって言うわけだね?」

「仰る通りです」

ニコニコと静かな笑みを浮かべるのは立海テニス部部長、幸村さま。部活が終わって皆が帰るなか彼を呼び止めるのはかなり勇気が要った。
でもここまでしたなら、意地でも見てもらわなきゃ困る。

「幸村なら美術も上手いから手伝ってくれるかなー…とか」

「ふーん…これって締め切り、いつだったかな」

「…いや、わかってました!でも」

「でも?」

「うっ…すみません。忘れてました」

こんな寒い日に魔王のような視線を突きつけられる。あー怖い怖い、いやマジで。
でも同じクラスだからと言ってピッグ丸井とプリピヨ仁王に頼むわけにはいかない。あいつら毎回意味わかんない絵描くから。丸井はもちろん自分の好きなものしか描かないし、仁王な至っては、これ芸術なの?と疑いたくなるようなわけわからん絵だった。あいつら絶対絵心ない。
しばらく氷点下の沈黙が続いたあと、幸村はにこりと笑った。

「まあいいよ。なまえの頼みだしね」

見てあげよう、と幸村はスケッチブックを取り出した。
さすが神の子!さっきは魔王のような目も、今は光輝いて見える。

「わあいありがとう幸村!」

やった、これで万事解決。
美術の成績(だけじゃないけど)オール5の幸村に見てもらえれば今は3の私も途端に5になるんじゃないかね!

「でも条件があるんだ」

条件?いいよ、なんでも言ってくだされ!
神の子幸村様の頼みを断る理由なんて私には存在しない!
そんな様子を見て幸村は再びにっこり笑った。
あれ、心なしか黒かったような。

「これから一週間は、マネージャーになってほしいな」

「マ、ネージャー?なんだそんなことでいいの?」

意外と拍子抜けした。テニス部のマネージャーならまあ何回かお手伝いしたことあるし、なかなか楽しかったからいいや。
いいよと返事をするとまたにっこりと笑った。
え、何その笑み。

「誰もテニス部なんて言ってないけどね」

「え?」

「まあ簡単に言えば俺の雑用係かな」

幸村がぼそりと呟いた。
はい?今なんて?

「明日からまず朝はモーニングコールで起こしてね。それから、」

次々と出される難題に唖然。ってか絶句。
まず、なんだ、じゃあ私はこれから一週間は幸村より早くに起きてなきゃいけないってこと?馬鹿みたいに早い朝練が毎日ある幸村を?

「まあそうなるよね。ははは。それから」

幸村の口はまだ止まらない。おいおい待て待て、

「肩がいたい…なんか肩揉んでほしい気分だな」

「はい!」

シュバッと幸村の背後に回って肩を揉む。あれ、意外と順応早くないか私。

それを見て調教ずみの犬を見るように幸村は満足そうに微笑んだ。









これでほんとに美術の成績が5だったんだから悔しい。