ろぐ | ナノ




今は昼から雨だった。夏の雨ってなんか綺麗で懐かしくて涼しくて、切なくて私は好きなんだけど先生は早く止んでしまえと五分ごとに独り言みたいにぶつぶつ呟くから多分嫌いなんじゃないだろうか。(天パが一段と酷くなるからだろうと私は踏んでいる)
しとしとと降る雨に近づきたくて教室の窓を1つ開け、ひじを掛けて黄昏る。うん、涼しいな。


「…オイ、早くその魔界への入り口である窓を閉めねーともれなくお前の頭が天パになります」

「先生とおそろいならいーよ。それより先生、夏に降る雨って結構風流だと思うんですが」

「バーロー、梅雨時期は先生大変なんだぞ」

「普段の二倍天パの坂田先生も可愛いですよ」

「二倍なんてもんじゃねえ五倍だ!お前に天パの苦しみがわかってたまるか」

「えーそんなこと言わないでくださいよー傷つきますー」

「…ってかいつ帰んのアナタ。もう皆帰りましたよ」

「んー先生が帰るとき」

「馬鹿かオメーは」


銀ちゃんのわざとらしいはーあというため息が聞こえる。全くいやらしい。


「なんで帰んねーの?お前が帰らないとオレ怒られるんだけど。教室閉めらんない」

「先生と帰りたいから?」

「アホかお前は」

「ひどーい。先生は生徒が困ってても助けてくれないんだー」

「お前を助けるくらいならもっと困ってる人のボランティアに行くわ」

「うわ!先生それ言葉の暴力ですよ!」

「お前辞書引いてこい」


そんなとげとげの言葉のキャッチボールをしている間に少し雨が激しくなった。これ以上はこのまま窓を開けていたら中に入ってずぶ濡れになるか。
ばたんと窓を閉めて振り向くと銀ちゃん先生が目の前にいた。背、高過ぎ!胸板しか見えない!


「ぎ、ぎんちゃ、うわっ」

「ったく女の子ならこういうのに気使いなさいよ全く」


憎まれ口を叩きながら銀ちゃんにタオルで頭をゴシゴシ拭かれている。
あれ、私いつのまにこんなに濡れてたっけか。気づかなかった。 私の頭を拭く銀ちゃんがまるでお母さんみたいで少し笑えた。あ、銀ちゃんからタバコと糖類が混じった匂いがする。


「はいよ」

「あ、ありがとうございます」


拭き終わったタオルは悪いので洗う、と言ったんだけど銀ちゃんは別にいいからお菓子くれって言われたのでポケットを漁る。


「あ、あった。飴だけど」

「あいよ。ん、苺ミルクじゃん!ラッキー」


…実は、私のポケットにはいつも、銀ちゃんの好きな苺ミルクしか入ってないんだけどね。というのは内緒にしとこう。


「よし、んじゃ帰んぞ」

「あ、私は…」

「一緒に帰るんだろ?」

「えっ?」

「どうせなまえのことだから傘でも忘れたんだろ」


…なんでわかったんだろう。
委員会が終わったら皆帰っていて傘借りられなくて、今日に限って濡らしちゃいけない大事なプリントがあった。
だから銀ちゃんが教室から出たらこっそり借りに行くつもりだったのに。
…迷惑、かけたくなかったから。


「今日職員室傘ねーよ。全員傘忘れたから全員分使ったら全部なくなった」

「どういう確率!?」


うちの先生全くニュース見てねえなオイ!って人のこと言えねえ!

「だから、オラ」


差し出されたのはカッパ(衣服)と銀ちゃんが毎日スクーターで学校に来るとき被ってるヘルメットだった。


「これ銀ちゃんのじゃん」

「俺の後ろという特等席で良ければドーゾ」

「や、いやいや大丈夫だよ!私雨好きだし、走って帰るよ」

「走って帰れるんだったらもう帰ってんだろ」

「…でも、これ借りたら、銀ちゃん濡れちゃうよ」

「別にいんだよ」

「…天パ五倍になるんでしょ」

「そんな銀さんでもかっこいいんでしょ」

「…うん」

「じゃあ問題なし。ほら置いてっちまうぞ」

「あっ待って待って!」


背中をくるりと向けて歩き出す銀ちゃんの頭はすでに二倍くらい天パが増量していた。
ああ確かに、天パ五倍でも銀ちゃんかっこいい。
こんなんなら、たまには濡れるのもいいかもしれない。









「二倍×五倍で七倍…か」

「ちょってめえ不吉なこといってんじゃねええええええ」