ろぐ | ナノ




それはなまえと、昼飯でも食べるかってなって近所の安いファミレスに入った時のことで、彼女の一言から始まった。

「私最近好きなやつできてん」

「ッブフォッ、そ、そうなんか」

俺は思わず食べていたホットドッグを吹き出しそうになり、慌ててナプキンを取る。
いや、多分誰しもこんな展開になったらこうなると思うんやけど。というか普通彼氏と昼食べに来て好きな人できたとか言うんか?え、なんやこれ、別れ話?

「彼、包容力あんねん」

「お、おん」

なまえは別に深刻に話すでもなく頼んだパスタをフォークに上手く巻いて口に運ぶ。俺、パスタとかフォークに上手く巻けんねん…
ってそうじゃなくて、いやいやまず落ち着け忍足謙也。スピードスター。とりあえずコーラ飲も。

「しかも、ごっつあったかいんや」

「ほお、グフッ」

ゴホッとむせる。ジュースを飲みすぎたらしい。
なんや、なまえは俺にかなり遠回しに嫌味を言うとるんやろうか?いや、それなら別に好きな人のくだりいらんやろうし、そもそもなまえはそういうタイプやない。財前でも乗り移ったんか?

「いつも朝はあいつから離れられんねん」

「ブッ」

いよいよ話が笑えなくなってきた。えっ朝て、何や?

「朝まで一緒におるってこと?」

勇気を振り絞り、聞いてみる。あかん、これで肯定されたら俺完全に立ち直れなくなりそうやわ。

「おん」

あかん。あかん。
俺はドリンクを注ぎに行ってくるわと言って席を立つ。考える時間が足らへん。
というかそもそも俺の前でこんな事を言うことに何か意味があるんか?別れ話っぽい雰囲気ではないんやけど、万が一って可能性はある。
とりあえず整理しよう、お兄さんとか弟とか、ペットとかいう可能性はあらへんか?
いや、ない。なまえは兄弟もおらんしペットも飼ってないはず。小学校からの付き合いやからそこは確かや。
じゃあなんや、従兄弟とかか?従兄弟ならもう何も言えへんけど。(従兄弟って結婚できるみたいやし)いやここはむしろ普通に俺以外の男?
まあどっちにしろ俺以外に好きな奴が出来たんは明らかってことや。


ジュースのコップを持って、なまえのいるテーブルの前に立つ。

「なまえ、」

「何や忍足えらい遅かったなあ。トイレでもいっとったん?」

ジュース持って?、と言いながら爆笑するなまえの声も既に耳に入らなかった。

「というかそのコップ空のまんまなんやけど、忍足何しに行ってたん」

「なまえ、ちょっと聞いてくれへんか」

「どしたん、深刻な顔して。忍足が深刻な顔してるとおもろいな」

ころころとなまえは笑う。
パスタはもう食べ終えたみたいで、なまえはジンジャエールを飲んでいた。
男なら覚悟、決めな、な。

「俺、なまえにそんな不満溜まらせてたなんて気がつかへんで…包容力もなくて、冷たくて、…ヘタレで…ほんとすまん」

ズコズコとなまえのジンジャエールを飲む音が止まる。
あああかん、俺今たぶんごっつ情けない顔してると思う。
見られるのが嫌で、なまえを見ないように下を向いた。

「結構長い付き合いで、小学校から一緒にいたから俺、気とか使えんで、なまえに嫌な思いばっかさせてたんやな、」

「は、」

昨日も去年も三年前も、なまえは俺といるのが嫌やったんや。
なのに、中1のときやっと告白とかして、舞い上がって、馬鹿みたいやったんやな。
あかん、泣きそう。

「告白とか、ホンマ、忘れてくれてええから、」

「忍足ちょお待って」

「いつも割り勘ですまんかった。これで最後やし、俺がおごるから、これからは、おごってもろてな、」

「いやいや」

「その彼と、幸せに、」

「ごめん忍足、なんの話?」

「ホンマなんの話…ん?」

え?なん、何て?

「何て…さっきの」

「いやあれ布団の話やけど」