ああまずい、入れない。わいわいと声の聞こえる扉の前で一人私はそう思った。
ただ、その、私は星が好きで、できれば西洋占術とか専門で学べたら楽しいだろうなあとかちょっと制服可愛いなあとか、そういう気持ちでこの学園を選んだ。だから昨日初めてこの教室に入って、自己紹介した時に周りを見て、まさか、こんなに男の子ばっかりだとは、思わなかった。
どうしよう。ただでさえ積極的な性格なんかじゃないのに。しかも大勢の男の子の中で生活するなんて、絶対無理だ。
早く入らないと遅刻しちゃうのに、足がすくんでうまく動かない。本当に、どうしよう。


「入らないのか?」
「えっ」


不意に後ろから声がしてどくん、と心臓が跳ねる。
後ろを見ると見たことがない人が立っていた。…まあ例え同じクラスだったとしても、多分まだ覚えてないんだけど。


「早くしないと遅刻するぞ」
「あっ、えっと」


緊張と怖さと、もろもろ混じって上手く口が回らない。


「見たことがないが転入生なんだろう?」
「あの、」
「大方緊張して入れないってとこか?」


次々に言葉を浴びせられてどれに答えたらいいのかわからなくなる。転入生です、緊張してます。


「お前は、」
「あ、あのっ!」


とりあえずこれ以上質問を増やされないように声を出したはいいものの、続きに何を言えばいいんだろう。大きい声出しちゃって、この人もきょとんとしてるし、わああごめんなさい…!


「あなたのほうが、遅刻しちゃいますよ」


何でこんなこと言ってるの私。せっかくこの人、扉の前で固まってる私に声かけてくれたのに。ありがとうございますって言わなきゃダメなのに。ごめんなさい。
がっくり項垂れて涙が出そうな私を見て彼は笑った。えっ何で笑われてるの。


「っくく、」
「な、なんで笑ってるんですか」
「いや別に。お前面白いなあ」


そう言うと急にいたずらっ子のような笑いを浮かべた。この人さっぱりわからない。でもきっと…悪い人ではないような気がする。


「じゃあお前が入るまで俺はここで待っていることにする」
「へ、な、何でそうなるんですか」
「何でもだ」


彼は鞄を廊下にどっしりと置いて、窓にもたれかかる。ご、強引と言うかなんというかすごい圧迫感のある人だなあ。
でも早く入らないと私も遅刻するし、こんな私のせいでこの人が遅刻してしまうのもすごく悪い。
早く入れ、行かなきゃ、行かなきゃ。変われない。


「大丈夫だ。俺が見てるし」
「…はい」
「それに、お前に足りないのは少しの勇気だ。それさえ出せば上手くいく」
「ど、どうしてそこまで言い切れるんですか…?」
「んー勘だよ、勘!」


なんてアバウトなの、と思わず笑いが零れる。でも、足りないのは少しの勇気ってことは私も分かってる。頑張れ。
深呼吸してから力一杯扉を開けて中に一歩踏み出す。


「お、おはよう!」


教室のみんなに聞こえるかな。無視されちゃったらどうしよう、というか私の挨拶なんて、誰も聞いてくれないかもしれない。
震える手でぐっとスカートを握るとクラス中から太い男の子の声で「おはようー!」という声が聞こえた。顔を上げると皆にっかり笑っている。
良かった…!皆、すごく優しい。一人で悩んでたさっきまでの不安が嘘みたい。お礼を言おうと思って廊下の方を振り返るともう彼はいなくなっていた。
どうしよう…名前まだ聞いてないのに。


とにかく少しずつ、この学園に慣れていこう。そうしたらきっとあの人にも会えるはず。







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