夏祭りまで、あと2日。つまり明日だ。なのに外は生憎の雨続きだった。明日から晴れるという予報はあるけれど定かではない。あれから私はお腹も減らないし、ベッドで寝るだけの生活をあれからしてたからほとんど外に出てないので一樹や月子ちゃんや誉どころかクラスの人にも会ってない。ニートか私は。
あんまりにも来ないものだから誉や友達からは心配の電話とメールがまばらに来ている。もちろん一樹からメールと電話が入ってるけれど、悪いけれど返信はしてない。そういう気分じゃないし、第一今、一樹となに話せばいいのか勝手に私が迷ってるから。心に整理がつくまで少し待ってほしいんだよ…ごめん。だから一樹以外のメールに返事を返す作業しか最近していない。夏バテかなあ。


今日もベッドの上に転がって寝ていたけれど寝苦しくて目が覚めてしまった。汗がびっしょりだ。今何時、と携帯を開くと誉からメールが来ていた。しかも時間はつい2分前に。そして今は、朝日が出る前の夜中だ。誉起きてるのか…こんな夜中にどうしたんだろう。誉は寝るのが早いだろうから夜は苦手かと思ってたんだけど…。はずしたか。ならあの身長の高さはなんなの…。そんなことをぼんやり考えながらメールを見ると、誉にしては意外なメールが来ていた。珍しいこともあるのね。






「…誉!」
「あっ、起きててくれたんだ、なまえ」



屋上庭園への呼び出し。これがさっきのメールの内容だった。普通の学校なら夜中に学校なんて入れたものじゃないけど、なんといっても星月学園。星を見るために屋上庭園はきちんと開けてある。また、観察もできるように色々設備されてるから本当に星を見るにはぴったりだ。騒がしい蝉がなく元気な昼とは違って、りんりんと響く鈴虫の声が涼しくて風も気持ちいい。



「誉は星見に来たの?」
「うん。明日は晴れるって聞いたから星が久しぶりに見えるかと思ってたけど、まだ見えないね」



まだ少し小降りな雨をしのごうと持ってきた傘の下から空を覗くと、 誉の言う通り雲が邪魔をして星は見えない。ううーん、もったいない。視線を戻すと誉はベンチをタオルで拭いて、傘をさしながらもう座っていた。なるほど準備がいいことで。



「なまえも座って。あ、そこみずたまりあるから気をつけて」



指定されたところを気をつけて歩いて誉の隣に座る。誉は星が見えないのに、屋上庭園に何をしに来たんだろう。しかも私を呼んで。



「いや、起きたのはたまたまなんだ。で、ここに来たのもさっきの理由。…で、なまえを呼んだのは…話がしたかったから」
「はなし?」



いつもにこにこしている誉が、今ももちろんにこにこしているのだけれど、真剣な話っていうのが何となくわかった。こういうところ、誉は弓道部部長なんだと実感した。



「…久しぶりだね、誉と二人きりで話すのは」
「星を見るのも、ね」



誉はずっと、私のお兄ちゃんというか、お母さんみたいな、優しくて私にとってなんでも相談できる相手。そんな誉が私に話があるってことは、誰にも話してないということになるから大方話の予想はついた。でもその前に、ゆっくり誉と色んな話したい。そう思って、部屋から持ってきたコーヒーを注いだ水筒を出して、コップに注いだ。



「はい、あげる」
「わ、ありがとう。なまえ」



もう一個水筒を取り出して自分のコップに注ぐ。コップからは湯気が出ていて、誉と並んで、しとしと降り注ぐ雨の中に湯気が消えていく様はなんだが妙に心が落ち着いた。