「…つ〜ば〜さ〜ああああああああああ!!!」
「ぬはは〜ぬいぬい似合うぞー!」



自分も爆発にあったのか、いつもぴょんぴょん跳ねてる翼くんの髪の毛先が少し茶色に焦げかかっていた。心なしかちょっと毛先から煙出てない?気のせい?大丈夫か翼くん…。



「俺の素晴らしい髪型をどうしてくれるんだ翼?」
「ぬいぬいの変な髪型のことか?」
「変と言うな変と!!チャームポイントなんだよ!!」
「まあまあ会長、翼くんも悪気は無いですし…素直なだけですから」
「…そのフォローが余計に俺を苦しめているんだぞ颯斗…!」



颯斗くんはアフロな一樹をさらりと無視して、こんにちはみょうじさん、とにこやかに挨拶してくれる。「久しぶりだね」と返すと
またにっこり笑ってくれた。丁寧でいい子なんだけども笑顔怖いよ!なんか絶対黒いよ颯斗くん!



「僕にはそんなつもりありませんよ会長」
「ぬいぬい被害妄想すぎるぞ〜ぬはは!…って、なまえにのっぽ先輩だ!」
「ふふ、こんにちは」
「ってか翼くんってば毛先焦げてるよ?」
「ぬ?」
「本当だ…熱くない?天羽くん」
「大丈夫ですよ。翼くんにはこんなの日常茶飯事ですからね」



完全に蚊帳外な一樹が「お前らあとで覚えてろよ」と涙を滲ませながら呟く。あ、一樹の毛先もちょっと焦げてる。


「残念ながら僕と翼くんはもう帰ります…お先に失礼します」
「はっ!?」
「ばいばいだぬーん!」



翼くんがだーっと走って行き、颯斗くんがぺこりと私たちに頭を下げて「翼くん、危ないですよ」と翼くんに呼びかけて追いかけていった。うん、嵐のようだ。



「楽しそうだね、一樹」
「アフロにさえならなかったらな…」
「似合ってる、よ、一樹」
「完全になまえ笑い堪えてるだろ!もう良いよお前ら俺を笑ええええええ」



一樹が勢いに任せてもう一度生徒会室の扉を開けると中には書類を整理している月子ちゃんがいた。お、眼鏡してる!かわいいなあ!普段の月子ちゃんも可愛いけれどこう、知的な月子ちゃんも素敵ですね。そんなことを思っていると、こちらに気付いたのかにっこり笑ってお辞儀をしてくれた。



▲▼



一樹が仕事をしている間、私と誉はさすがに居続けるのは悪いなあと思ったので帰るよといい続けたのだけれど一樹も月子ちゃんも「いいからいいから」と言ってふかふかのソファに座らせてもらってしまった。



「ほんとにごめんね、月子ちゃん」
「いえいえ!二人ともいらっしゃった方が賑やかで楽しいですから、全然気にしないでください。あと、これどうぞ」
「わあ、夜久さんありがとう」



ことん、と月子ちゃんがお盆に乗せて持ってきてくれたお茶を目の前の机に置いてくれた。おいおいこんな可愛い秘書が居たらやる気も出るってものだよ…。横を見ると誉が目を少し輝かせている。何故。



「これが一樹からよく聞く、夜久さんのお茶だね」
「ああ、月子の茶だ」
「月子ちゃんの茶?」



なに言ってんだ、月子ちゃんが淹れたんだから月子ちゃんのお茶に決まってるだろうと。どういう意味かと月子ちゃんに問おうとしたら月子ちゃんは真っ赤になっていた。えっ?



「ちょ、ちょっと会長!やめてくださいよ!」
「なんだよ、美味いって意味でだよ」



明らかにニヤニヤして意地悪い顔をする一樹。ああ、月子ちゃんからかってるのか…



「もう分かってますからね…!いいです、会長は飲まないでください!」
「悪い悪い」



一樹の前に置いてあるお茶を取って再びお盆に乗せる月子ちゃん。まさにぷんぷんといった可愛い効果音が似合うおんなのことは今の月子ちゃんなのねと私は感じた。私は多分こんなに可愛く怒れないからもう遺伝子レベルからして違うのかもしれない。



「仲良いね、二人」
「そうだねえ」



正直言うと、どう見てもお似合いの二人だ。月子ちゃんは一樹にはもったいないくらいだけれど。こんな仲良しな光景を見てもし他人の私なら完全にカップルと思い込む。滲んできた涙を隠すためにあくびをするふりをした。あーあ、やっぱり来なきゃ良かったかあ…。



「…なまえ」
「ん?なに?」
「僕お菓子持ってるんだけど、いる?」
「えっ!いいの!?」



誉がくれる(というか持っている)お菓子は間違いなくおいしい。これは今までの経験上から導き出した結論なので間違いはないから、自然に私の顔も綻ぶ。



「うん。ふふふなんだと思う?夏っぽいお菓子かな」
「うーん…ゼリー?かなあ」
「惜しいよ。ヒントは、僕の家にありそうなもの」



誉の家は、茶道の家元。となれば、当然…和菓子?それでゼリーと惜しい。あっ、そうか、



「ようかん!だ!」
「ぴんぽーん。正解」



ぱちぱちと小さな拍手をしてからバッグから高そうなようかんを出す誉。なんかすごいオーラのあるようかんなんだけど…?いいのかな…。



「おいおいうまそうなもん持ってるじゃねーか誉!」
「ふふふ、いいでしょう一樹」
「よっしゃ、じゃあ皆で…」
「一樹にはあげない。夜久さんとなまえだけにあげるよ」
「…誉はいつそんな子に育ったんだあああああ俺はそんな風に育てた覚えはねえぞおおお」
「一樹に育ててもらった覚えはないよ。はい、なまえ、夜久さん。夜久さんも煎れてくれたお茶も一緒に、いただきます」



びっくりするくらい誉はスマートに、もともと3つに切ってあったようかんを器用に分けて、生徒会室のお皿とフォークを取り出して、私と月子ちゃん、そして誉の前のお茶の隣にに置いた。動きが優雅すぎる誉。すばらしいです。



「ありがと」
「ありがとうございます」



いただきますと礼してからいかにも高そうなようかんに手をつける。口に運ぶと、なんかいかにも高そうな、それでいて上品な味で、なんていうかすごいおいしい。隣の月子ちゃんもおんなじ気持ちみたいで感動していた。



「っ、誉、すごいおいしい!」
「おいしいです…!」
「ふふ、よかった。持ってきた甲斐があったよ」
「なんか、すごく、上品な味がしました」
「よね!なんか甘すぎず、みたいな」
「はい…こんなおいしいようかん初めて食べました」
「私も!やっぱり夏はようかんだね」
「はい!今度私のおすすめのお店のお菓子も持ってきますね」
「あ、私も持ってくる!」
「じゃあお菓子パーティーでもしましょうよ!」
「いいね。僕もなにか持ってくるよ」
「く…俺も食べたかった…!」



一樹が涙目になってる間に、わたしたちは盛り上がる。まさに女子トークだけれど、誉は自然に混ざっていて違和感がない。



「じゃあ月子ちゃんのお茶もいただきま―」
「僕もいただきます」



ごくり、と私と誉が同時に飲んだ瞬間。なんだろう…こう、言葉で言いあらわせれないような…うん。うん…。



「独特の味とお茶の苦味がまた…個性的…かな」
「…おいしい…よ。ありがとう、夜久さん…」



誉は笑っているけれどかなり含み笑いもしている。ああ、一樹が言ってることはこれだったか。一樹もにやにやしだした。全く、意地の悪い!けど、これは。



「月子ちゃん料理得意?」
「…う、実はあまり…。幼なじみに料理は任せっきりで…」



しゅん、となる月子ちゃん。月子ちゃんかわいいいいい!



「ふふ、夜久さんも苦手なことがあるんだね」
「あ、当たり前ですよ部長!」
「意外だね」
「だろ?なまえも意外だろ〜まあそこが月子のいいところだよな?これでも癖になっちまうんだよなー」
「か、会長は一言余計です!」



学園の女神とまで賞賛される月子ちゃんにまさかこんな弱点があるとは。やっぱり月子ちゃんも同じ人間なんだなあって現金だけれど親近感が沸いた。私が男だったら確実に惚れていただろう、な。ってだめだめ。今は久しぶりに色んなことを忘れて話そう。そう、去年の花火の前の頃みたいに。