2012/01/15
コンコンと天田の部屋のドアをノックする。中からはい、と返事か返ってくる。どうやら中にいるようだ。失礼するねと言ってドアを開けると天田は部屋の壁近くにたって、壁掛け型の時計を持っていた。
「あ、有里さん」
「時計、壊れたのか」
ああこれですかと差し出されるたものは子供の部屋にあるような時計じゃなくて、もっとシックなものだった。その時計は針が動かず14時のところで止まってしまっている。電池がなくなったんだろうか。
「きっとそうでしょうね。買い換えておかないと」
そう呟く天田の顔はどこか暗いように感じた。話を聞いてみようか、と天田のベッドに座る。小さいけれど、僕の部屋のベッドより座り心地が良い。
当の天田は何故僕が自分のベッドにいすわってるのかわからないらしくうろたえていたが、しばらくすると床に座って話し出した。
「…この時計みたいにこっちの時間も止まっちゃえばいいのにって思いました。そうしたら影時間なんてなくなりますよね」
天田はにっこりと笑った。
「なんちゃって、子供っぽいですよね。すみません」
「別にそんなことない。大体天田くんはまだ子供なんだから子供っぽくていいじゃないの。まあ僕も子供だけど」
そう言うと酷く驚いた顔をされた。…僕、何か変なことを言ったのだろうか。
「僕と有里さんが同じ『子供』なんて信じられませんよ」
「そう?そんなことないと思う」
すう、と天田は大きく息を吸って、吐く。それから話が変わりますけどと続けた。
「…たまに羨ましいんです。普通のクラスの子とかが。いつもめいっぱい遊んで、勉強して、寝て、起きて…僕もできたらああいう風に生きてた時期にいきたいです」
ああいう風に、というのは天田の母が生きてたころの事だろう。遠い目をして天田は半ば諦めたように話した。
「子供なのに、子供がうらやましくて、子供らしくないことを言う。だから子供らしくないって言われるんですよね」
ははと乾いた笑いを浮かべた天田は少し寂しそうに見えた。どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず黙っておく。
「早く大人になりたいんです。誰かを守れる力のできる大人に。でも、今までの大人達を見て大人になんかなりたくないって思いました。ならこのまま時間が止まって子供のままでいたい。」
なんて矛盾してますよね、と天田は目を閉じた。天田は小さな身体に大きな重みを背負っている。それはきっと寮に居る皆が背負っているものであるが、一人一人が共有できないもの。こればっかりは自分で越えなければならない。なら自分ができることはなんだろうと考えて、ぽんぽんと天田の頭を撫でた。
「話を聞くくらいならできる」
このくらいしか自分にはかけれる言葉はない。あとはきっと天田自信が乗り越えるだろうと信じてみることにした。天田はうつむいたまま時計を見つめている。
とりあえず僕は、この部屋に来た本当の目的を果たすことにしよう。
「あ、これ」
ひょいっと投げる。天田は慌ててそれを受け取った。
「…これ、ヒーローマン」
「ゲーセンで貰ったんだ。僕はもう一個あるから」
天田くんにあげる、と言うと天田は一瞬顔を輝かしてからこほんと咳をして小さい声でありがとうございますと言った。
「…さっきの話ですが、有里さんは、僕にとっては間違いなく僕が目指していた『大人』なんです」
「いや僕まだ16だよ」
「だから僕は大人と子供の定義がわからないんです。有里さんがまだ子供というなら僕はまだ赤ちゃんだし、有里さんがこのまま成長して僕が今まで見てきた『大人』と言うなら時を止めて、有里さんには今のままで、いてほしいんです」
話しながら天田のズボンに涙がポタポタと落ちていく。ハンカチを渡そうと思ったが、生憎持ち合わせていない。立ち上がり、ハンカチの代わりに自分の手で天田の涙を拭いた。…なんかどっかのキザな男みたいだな、僕。
「大丈夫、時が止まらなくたって僕は僕。天田くんは天田くんだろ。ずっと変わらないよ」
びっくりした顔の天田を背中に部屋のドアノブに手をかけた。もうそろそろ、ヒーローマンが始まる時間だ。
「…はい!」
いい返事。きっともう大丈夫だろう。
「じゃあね」
と言い残して扉を閉めた。
ヒーローマンが終わったら、後で買い物に行こうかな。暇そうだったら天田くんと一緒に、単3の電池を買いにでも。
◎フォルダ以下略
成長天田×主描きたい