ごみばこ | ナノ



2011/09/29


彼女の瞳から、涙が流れ落ちる。それは俺には止められない。その涙の意味は痛いほど知っているので、俺はただ早く彼女の涙が止む日が来ますようにと祈りながら服の裾をぎゅっと掴むことしかできなかった。その日が来るとしたら、彼女の心とは正反対に俺の心は傷付くんだろう。それでも彼女の涙を見ると胸が痛くて、その痛みは彼女と自分じゃない誰かが一緒にいるところを見るよりも遥かに苦しい。女神と呼ばれる彼女の清らかな瞳を涙で隠してしまうことも、彼女の凜とした声を嗚咽の声でおおってしまうことも罪深いことだと感じた。同時に罪深いことだとわかっているはずの彼が、どうして彼女をこんなにも苦しめるのか、それが甚だ疑問でならない。もしも、彼女が想いを向けている相手が自分だったなら。彼女を苦しめるなんて真似は絶対しないのに、なんていう空想をいくら並べてみてもそれは只の自己満足、ひいてはひとりよがりのわがままにしかならなくて一層むなしくなり、それは一ミリたりとも彼女のためなんかにならない。俺は、彼女のために何ができるんだろう
。問いかけた疑問を返す相手などどこにも居なく、俺はまた彼女からとめどなく溢れ出す涙を眺めていた。もし、彼女の悲しさの涙が砂糖で出来ていたら、俺はそれをすくって舐めてあげられていただろうか。もう二度と流さないように、食せたのだろうか。そう考えてから今自分の手元にある金平糖を彼女の涙だと思うことにして、早く彼女の涙が止まりますように、と2、3粒ほどすくって、口のなかに頬張った。金平糖はとても甘くて、とてもしょっぱい涙とは似ても似つかないな、と自嘲してまた頬張った。


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