ポジティブ夢主/戦前




「俺は、勝てるのだろうか……あの家康に」

ポツリと呟かれた言葉。霧に包まれた戦場の中、背を向ける三成の表情は伺えない。椿はしばしその背を見つめ、やがてにこやかに笑んだ。

「どうしたんですか? いつになく弱気ですね」


「……貴様はいつもと変わらんな」

「私だって緊張くらいしますよ」

「嘘を吐け」

落ち着き払った椿の様子に、三成は深くため息を吐いた。


「まぁ……それ以上に楽しみ、と言うか」

「……楽しみ?」

切り出された不可解な言葉に、眉を寄せ振り向く。怪訝な表情を浮かべる三成に、椿は笑いかけた。

「だって、やっと平和な世がくるんですよ? 皆が支え合って暮らす……三成様の築く世が。わくわくするじゃないですか」

「大戦を目前にして、とぼけたことを言う」


……だが、椿らしい。フッと小さく口角を上げる。そんな三成の手を、椿が両手で包む。

「大丈夫ですよ、三成様。ここまで頑張ってきたじゃないですか」

「椿……」

椿の手は態度とは裏腹に、細かく震えていた。
「私も不安がないと言えば嘘になります。でも信じてますから、皆を。……三成様を」

だから、必ず勝てます。真っ直ぐに三成を見つめ凛とした声で述べる椿。三成はおもむろに目を閉じた。最後の決戦に燃える、兵士達のざわめきが聞こえる。

「……貴様がそう言うと、本当に勝てる気がしてくるから不思議だ」

顔を上げ、椿を見つめて笑う。その目に、もう迷いはなかった。

「いや……違うな。俺は勝たねばならん。俺を信じてくれた者のためにも」

「はい。私も平和な世のために力を尽くします」

「……いいだろう。期待している」

「お任せください」



「椿。一つ、命令だ」

「なんでしょう?」

「死ぬことは、許さぬ」

「大丈夫ですよ」

先程と同じように、笑みを浮かべる。

「皆で生きて、城に帰りましょう」

戦場を見据える二人。間もなく、高らかに法螺貝の音色が鳴り響いた。



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