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「ええっ!? ちょ、半兵衛様! 返してください! 読んだら駄目ですって!」

椿の制止など聞くはずもなく、半兵衛は素知らぬ顔で丸められた書簡箋を広げ始めた。

「えーっと、どれどれ……」

そして、動きを止める。


――以前より、貴方様をお慕い申しておりました……。

椿の素直な想いをしたためたそれは、半兵衛の思考を停止させた。
数回まばたきを繰り返した後、確認するようにゆっくりと椿を見やる。


「…………これ、恋文?」

「……はい」

「俺宛ての?」

「…………はい」


いたたまれない気持ちでいっぱいのまま、椿は顔を伏せ、半兵衛から視線を逸らしながら口を開いた。


「え、えっと。直接言うのは恥ずかしいので文なら、と思ったのですが……結果的にこちらの方が恥ずかしいことになってしまったと言いますか、その……。いっ、いつまで見てるんですか!?  そろそろ返してくださ……、い?」


見上げた先には、口元を片手で覆う半兵衛の姿。――その顔は、真っ赤に染まっていた。


「……ごめん、これは予期せぬ展開だったよ」

初めて見る半兵衛の表情に、驚きを隠せない椿は、文を取り返すことも忘れ、呆然と半兵衛を見つめていた。


「……すごい、嬉しい」


呟くと同時に、半兵衛は椿の体を抱き寄せる。身じろぎすら許さぬ程の力強さ。
今の半兵衛に、感情を抑える余裕はない。

掠れた声で囁かれた言葉は、確かに椿の耳に響き渡った。


「俺も、好きだよ。椿」


2012/05/24




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