甘/明るい夢主



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城内のとある一室。
そこには机に向かい、丁寧に筆を動かす椿の姿があった。
背筋を伸ばし、紙面を見つめる表情は真剣そのものだ。

――某月某日、竹中半兵衛様。
一通り書き終えて、満足げに筆を置く。

「……よし。完璧」

「何してるの、椿」

「うわああ!?」


突如として、頭上から降ってきた声。椿は瞬時に広げていた書簡箋をかき寄せた。

「え〜、そういう反応する?」

半兵衛は訝しげに眉を寄せ、ぐしゃぐしゃになった書状を覗き込む。対して大慌てでそれをひっつかみ、後ろ手に隠す椿。

「はは半兵衛様、いつからここに!?」

「いつからって……ずっといたけど」

「嘘っ!?」

「うん、嘘」

「…………」


椿ってば俺が近づいても全然気が付かないからさ、と悪びれる様子もなく笑う半兵衛を、椿は無言で見つめる。

「やだなー怒らないでよ。ちょっとした遊び心でしょ?」

「怒ってません!」

「そう? ……で、何書いてたの?」

今一度問う半兵衛に、椿は首を傾げた。


「……見てないんですか?」

「見てないから聞いてるんじゃん」

「あ、そっ、そうですよね!」


良かった……と小さく呟き、胸を撫で下ろす椿。
――明らかに挙動不審な態度だ。

あの紙面には、俺に関わる何かが書かれている。
そう確信した半兵衛は、笑顔で追及する。

「何が良かったの?」

「いえ、なんでも! なんでもありません!」

「怪しーい」

「怪しくなんてないです!」

わざとらしい程に全力で否定する椿を眺めながら、半兵衛は一層笑みを浮かべた。
椿は元々、嘘や誤魔化しが得意な性格ではない。

「そういう反応されると余計気になるんだけどなあ」

「いえ、本当に大したものではないので……!」

「じゃあ見せてよ」

「駄目です無理です!」


「……ふうん、ならいいや」

残念そうにため息をつく半兵衛。
良かった、諦めてくれた。椿がそう思ったのも束の間。

「なーんちゃって! 隙ありっ!」

呆気なく書状は半兵衛の手に渡ってしまった。


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