甘/明るい夢主 (1/2) 城内のとある一室。 そこには机に向かい、丁寧に筆を動かす椿の姿があった。 背筋を伸ばし、紙面を見つめる表情は真剣そのものだ。 ――某月某日、竹中半兵衛様。 一通り書き終えて、満足げに筆を置く。 「……よし。完璧」 「何してるの、椿」 「うわああ!?」 突如として、頭上から降ってきた声。椿は瞬時に広げていた書簡箋をかき寄せた。 「え〜、そういう反応する?」 半兵衛は訝しげに眉を寄せ、ぐしゃぐしゃになった書状を覗き込む。対して大慌てでそれをひっつかみ、後ろ手に隠す椿。 「はは半兵衛様、いつからここに!?」 「いつからって……ずっといたけど」 「嘘っ!?」 「うん、嘘」 「…………」 椿ってば俺が近づいても全然気が付かないからさ、と悪びれる様子もなく笑う半兵衛を、椿は無言で見つめる。 「やだなー怒らないでよ。ちょっとした遊び心でしょ?」 「怒ってません!」 「そう? ……で、何書いてたの?」 今一度問う半兵衛に、椿は首を傾げた。 「……見てないんですか?」 「見てないから聞いてるんじゃん」 「あ、そっ、そうですよね!」 良かった……と小さく呟き、胸を撫で下ろす椿。 ――明らかに挙動不審な態度だ。 あの紙面には、俺に関わる何かが書かれている。 そう確信した半兵衛は、笑顔で追及する。 「何が良かったの?」 「いえ、なんでも! なんでもありません!」 「怪しーい」 「怪しくなんてないです!」 わざとらしい程に全力で否定する椿を眺めながら、半兵衛は一層笑みを浮かべた。 椿は元々、嘘や誤魔化しが得意な性格ではない。 「そういう反応されると余計気になるんだけどなあ」 「いえ、本当に大したものではないので……!」 「じゃあ見せてよ」 「駄目です無理です!」 「……ふうん、ならいいや」 残念そうにため息をつく半兵衛。 良かった、諦めてくれた。椿がそう思ったのも束の間。 「なーんちゃって! 隙ありっ!」 呆気なく書状は半兵衛の手に渡ってしまった。 next→ ← |