甘/幼なじみ/年上 幸村の頭上をじっと見上げた後、己の頭に手を乗せる。そのまま手を水平に伸ばすと、手はちょうど幸村の肩辺りにくる。 不可解な行動に疑問を抱く幸村をよそに、椿は深くため息をついた。 「幸村、大きくなったよね」 「……背丈ですか?」 「昔はこんなに小さかったのに、今は私よりずっと大きいもん」 なんかずるい、と呟く椿は、まるで拗ねた幼子のようで微笑ましい。思わず笑む幸村を、椿は不機嫌そうに見上げる。 「笑わないでよ」 「すみません。椿殿は、女子ですから」 「そうなんだけど。もう少し背欲しいんだよね。伸びないかなー。跳ねたりすればあるいは……ってちょっと、幸村」 真面目な顔で思案する椿の傍らで、肩を震わせて笑う幸村。 「笑わないでってば!」 「すみません」と謝りながらも、緩んだ口元を隠すように押さえる幸村に、椿は唇を尖らせた。 「少し前までは姉弟みたいな感じだったのに……。今じゃどっちが年上かわかんないよね」 椿はふう、と諦めたように一息つき、くるりと背を向ける。 「幸村がどんどん私から離れていっちゃうみたいで寂しいなー」 背を向けたまま、大げさに言い放たれた言葉に、幸村は穏やかな笑みを浮かべた。 「そんな心配せずとも、私はずっと椿殿のそばにいますよ」 「本当にー?」 「……あなたは、昔から変わりませんね」 そう呟いた幸村に、椿は眉を寄せて振り返る。 「成長してないって言いたいの?」 「違いますよ。純粋なところとか、素直なところとか。あとは……そうですね」 幸村は少し考えるような仕草をした後、おもむろに口を開いた。 「私の気持ちに気付かないところも、でしょうか」 「……ん?」 「まあ、そんなところも含めて好きなのですが」 「え、え?」 あまりにも平然とした告白に、状況を飲み込めず混乱する椿。 考える暇も与えないまま、幸村は軽々と椿を抱き上げた。 「成長したのは身長だけだと思いますか?」 「ちょ、ちょっと……!?」 慌てふためく椿の顔を覗き込み、幸村はふわりと微笑む。 「弟ではなく、一人の男として。意識していただけましたか?」 余裕のある物言いに、椿は頬を紅潮させた。 「……やっぱりずるい」 「……え?」 「私ばっかり、ドキドキさせられてるみたいで」 染まる頬を隠すように、ふいと顔を背ける椿。そして、幸村と目を合わせないまま、小さく呟いた。 「意識なんて、とっくにしてるよ」 2012/04/27 ← |