甘/微破廉恥/他軍忍 突然の激しい雨に、椿は岩壁にできた洞へと駆け込んだ。 濡れた装束を気にする暇もなく、武器を構える。 ……何者かの気配。張り詰めた空気の中、じりじりとその気配に詰め寄る。そして、目を僅かに見開いた。 暗闇に佇むは、見覚えのある紺碧の影。 「……久しいな、半蔵」 半蔵は閉じていた目を薄く開け、椿の姿を一瞥すると、再び静かに目を閉じた。 傍らの岩に干された半蔵の装束が、ポタリと音を立てて滴を落とす。 「まさか、こんな所でお前に会うとは思わなかったぞ」 椿は武器を下ろし、片手で顔にはりついた髪をかきあげた。 「…………この雨では、任務も捗らぬ」 控えめに発せられた低い声は、狭い洞の中で良く響く。 「相も変わらず、寡黙な男だ」 椿は含み笑いを浮かべ、己の装束を軽く絞った。いっそのこと脱ぎ捨ててしまいたいところだが、半蔵のように上半身を露出させるわけにもいかない。 「……任務の最中に降られるとは、お互いついてないな」 そう呟き、両手で抱えるようにして体を押さえた。濡れた衣服は、容赦なく体温を奪う。 「そのままでいるつもりか」 「なんだ、脱げとでも言うのか? 生憎だが、それは御免だ。お前に晒せる体など持ち合わせていない」 「……良く喋る女だ」 「悪かったな。これでもお前と同じ忍だ」 言い終えて、椿はぶるりと体を震わせる。 「しかし、どうにか暖をとれないものか……」 椿は半蔵をちらりと見やり、小さく呟く。 「こういう時は、人肌が良いと聞くが……」 「…………」 「冗談だ。そう睨むな」 「……暖めて欲しいのか」 意外な言葉に振り向けば、いつの間にか半蔵の顔が間近に迫っている。濡れた漆黒の瞳に捉えられ、抗う術も無いまま唇を奪われた。 何度も角度を変えられ、次第に深くなっていく口付けに、脳が痺れるような感覚を覚える。舌を絡め取られ、淫らに響く水音は、雨音に遮られかき消される。 交わる唾液が、椿の口端を伝った。ゆっくりと、半蔵が椿に覆い被さる。――降りしきる雨は、未だ止みそうにない。 2012/03/17 ← |