「うおっ、猫だぁ!」 とことこと歩いていた白い猫を見つけ、正則は嬉しそうに笑顔で手を差し出した。 「お手! お手っ!」 その様子に、清正が呆れかえる。 「馬鹿かお前は。犬じゃねぇだろ」 「あ、そか! じゃあおかわりっ!」 「…………馬鹿」 ふう、と深く息を吐く清正。 ……そこに突然、正則の悲鳴が響き渡った。 「どわあ痛ぇええ!」 先程までしゃがみこんで猫を撫でていたはずなのに、何が起こったのか。慌てた清正が、猫と正則を覗き込んだ。 「ど、どうした正則!?」 「こいつ噛みやがった!」 痛ぇと猫を指差す正則の手には、確かに小さな歯形がくっきりと残っている。 妙に滑稽に感じ、清正が吹き出した。 「……ふ」 「清正、今笑っただろ!?」 「いや、別に?」 「嘘つけー!」 わいわいと騒ぎ立てる二人をよそに、猫は踵を返す。 「あ、おいこら猫! どこ行くんだよ!?」 気付いた正則がすかさず追うが、小さな壁穴に逃げ込まれてしまう。 正則が穴を覗き込むが、そこに猫の姿は見当たらない。 「待てっ! ……くっそ逃げられたー!」 悔しそうに地団駄を踏む正則を見て、清正が笑った。 「嫌われたな。正則」 「えぇーっ、俺何もしてねぇのに!? つうか俺、猫にすらモテねぇってどういうことだよ清正ぁ!」 「俺に聞くなよ」 ――その後の城内では、悔し紛れにものに当たり散らす正則の姿があったという。 ← → ← |